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新連載 ドルフィンガイド潤さんのイルカ見聞録
第4回「イルカと泳ぐ」を考える旅

ドルフィンガイド潤さんのイルカ見聞録

人気連載「野生のイルカと泳ごう!」の筆者でダイビングガイドの長谷川潤さんによるシリーズ第2弾。長谷川さんが海の中で見聞きした野生イルカの行動やイルカにまつわるストーリーを、美しい写真と動画でつれづれなるままに綴っていきます。これを読めば、野生のイルカが身近に感じられ、大好きになること間違いなし! 第4回は、ノンフィクション作家・片野ゆかさんの御蔵島取材旅行に同行した長谷川さんのレポート。「野生のイルカと泳ぐ」ことの意味を一緒に考えてみませんか?

※2026年7月の情報です

はじめに

母子イルカ 2026年7月7日 御蔵島 Photo by JUN HASEGAWA

母子イルカ 2026年7月7日 御蔵島 Photo by JUN HASEGAWA

7月6日から8日にかけて、ノンフィクション作家の片野ゆかさんの取材に同行して御蔵島に行ってきました。片野さんは雑誌「小説宝石」に「ギフト 私たちはなぜ動物に癒されるのか?」という連載をお持ちで、これまで「馬」「犬」「猫」の「広い意味での癒し」について書かれてきました。これに続く第4弾は「イルカ」です。イルカと人との関わり方を掘り下げる片野さんと対話し、一緒にドルフィンスイムをすることによって、「野生のイルカと泳ぐ」ことの意味についてあらためて考えさせられた今回の旅。イルカたちの写真や動画もふんだんに使ってレポートいたします。

動物と人との関係に向き合う片野ゆかさん

橘丸の甲板にて片野さん(左)と編集者Hさん(中央)と共に乾杯!(2026年7月6日 レインボーブリッジ付近) Photo by JUN HASEGAWA

橘丸の甲板にて片野さん(左)と編集者Hさん(中央)と共に乾杯!(2026年7月6日 レインボーブリッジ付近)
Photo by JUN HASEGAWA

片野さんと初めてお会いしたのは2015年2月。当時ぼくは東日本大震災で被災した動物たちの問題に関わっていて、ペット防災に関する連続ワークショップを開催していました。そのワークショップに片野さんが参加してくださっていたのです。それ以来、ぼくが手掛けている動物保護の活動をたびたび取材していただくなど、親しくお付き合いさせていただいています。
「ギフト 私たちはなぜ動物に癒されるのか?」のイルカ編についても、かなり前から関わっていて、片野さんと御蔵島でドルフィンスイムをご一緒するのは今回が2回目になります。

「イルカ 癒し」のキーワードで検索して出た画像の一つ(adobe stockより)

「イルカ 癒し」のキーワードで検索して出た画像の一つ(adobe stockより)

片野さんが手掛ける連載作品の大テーマは「動物による癒し」。「イルカ=癒し」というイメージは世界中に広まっているようで、そのイメージは著名な研究者や画家、人気のテレビ番組などによって確立されていったそうです。
しかし御蔵島は、荒々しい海に囲まれていて、船の欠航率も高く、たどり着くことからして困難な島。運良く着くことが出来ても、外洋の真っただ中にある御蔵の海は、波・うねり・海流の影響をまともに受けるため、ベタ凪ぎの海で泳げる機会はめったにありません。つまり御蔵島は、イルカが人を癒してくれるかどうかという議論以前に、落ち着いて「癒し」を享受できる環境とは言い難いのです。

ドルフィンスイム船上の片野さんと草地ゆきさん(2026年7月7日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

ドルフィンスイム船上の片野さんと草地ゆきさん(2026年7月7日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

今回も、連日の大雨による濁りと、はるか南にある台風9号の強力なうねりと戦いながらのスイムとなりました。イルカたちは濁っているエリアにいることが多く、また波が高いエリアで波乗りを楽しんでいました。ドルフィンスイムや海そのものに慣れていない人にとっては、癒しどころか苦行のような体験と言えるかもしれません。しかし取材で動物ワールドを渡り歩いている片野さんは、船酔いもせず、疲れる様子もなく…さすが筋金入りのノンフィクション作家さんです!

イルカを見つめる片野さん(2026年7月7日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

イルカを見つめる片野さん(2026年7月7日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

片野さんは、プールでの事前練習にも参加するなど入念な準備をされていて、荒れ気味の海にも臆することなくエントリーしていました。
イルカたちは波が高い岸近くにいることが多かったため、姿が見えていてもなかなか海に入ることができない時間帯もありましたが、イルカたちのテンションはおおむね良好で、かなり遊んでもらうことができました。
そして次章で詳しく書きますが、イルカたちの暮らしのシビアな一面も垣間見ることができ、野生のイルカのリアルを実感できる取材になったのではないかと思います。

動画:MD御蔵島ドルフィンスイム 2026.7.7-7.8

野生のイルカって、結構大変!?

さて、御蔵島のイルカたちはまぎれもない「野生動物」です。イルカたちが暮らすエリアとその外側の海の間には遮るものはなく、御蔵島周辺海域は完全に守られた聖域というわけではありません。当然、天敵やイルカにとって好ましくない存在と遭遇することもあります。
今回の旅では、一見平和でのんびりしているように見える御蔵島のイルカたちが、実はさまざまな脅威と向き合いながら暮らしているのではないか、と想像できる場面に出会いました。ここではその2つの例を紹介します。

共生?それとも寄生??クロコバンとイルカの微妙な関係

イルカに付着するクロコバン(2026年7月7日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

イルカに付着するクロコバン(2026年7月7日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

小笠原や御蔵島のドルフィンスイムで出会うイルカたちを見ていると、黒っぽくて細長い魚がくっついているのをよく見かけます。コバンザメ科の魚「クロコバン」です。
この魚、現地では「コバンザメ」と呼ばれていますが、コバンザメとは別種の魚です。ちなみに本家のコバンザメはクロコバンよりも更に細長く、白とグレーのストライプ模様。どちらも小判に似た形の大きな吸盤で、大型魚やクジラ・イルカに付着して暮らします。

コモリザメに付着する「本家」コバンザメ(2024年6月4日 バハマ・ビミニ諸島) Photo by JUN HASEGAWA

コモリザメに付着する「本家」コバンザメ(2024年6月4日 バハマ・ビミニ諸島)
Photo by JUN HASEGAWA

クロコバンがイルカに付着する主な目的は次の3つと考えられています。
・移動を楽にする
・餌のおこぼれをもらう
・寄生生物や古い皮膚を食べる

これに対し、イルカがクロコバンを付着させているメリットとして考えられるのは、寄生虫を食べてもらうことによる「クリーニング効果」なのですが…クロコバンとイルカは、互いに利がある「共生」の関係にあるのではないかと思っていたのですが、御蔵島のイルカたちがクロコバンをうっとうしそうにしているのを見る機会が多く、これはむしろ「寄生」なのかな、と思うようになりました。

付着したクロコバンを気にしながら遊ぶイルカ(2026年7月7日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

付着したクロコバンを気にしながら遊ぶイルカ(2026年7月7日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

ハイテンションでぼくらと遊んでくれた上の写真のイルカさん。ですが、お腹に付着していているクロコバンが不快なようで、体を激しく振って振り落とそうとしていました。ですが、クロコバンは離れてくれません。

動画:MD クロコバンを振り落とそうとするイルカ 2026.7.7 御蔵島

ちなみに、ぼくが御蔵島でクロコバンを頻繁に見かけるようになったのは10年くらい前からで、それ以前には見た記憶がありません。小笠原では昔からよく見かけていたので、地球温暖化などが原因で御蔵島周辺の海水温が上昇し、クロコバンの生息域が北上したのではないかと思っています。
クロコバンは、イルカの生命を脅かすような存在ではありませんが、人間が引き起こした気候危機が原因でイルカたちのストレスを増やしてしまっている可能性もあるわけで‥‥本当に申し訳ない気持ちです。

イルカの天敵「サメ」について

白い傷があるイルカ(2026年7月8日 御蔵島)

白い傷があるイルカ(2026年7月8日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

今回の旅のラストスイムで出会った、遊び好きな若いイルカ。背びれの前と右側の体側に不思議な形の白い傷が見られました。

大型のサメによると思われる嚙み傷(背中側) 
(2026年7月8日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

大型のサメによると思われる嚙み傷(背中側)
(2026年7月8日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

近づいてよく見てみると、右側の体側の傷は半円状になっていて、皮膚に鋭利な何かが突き刺さったような痕が規則正しく並んでいます。どうやら大型のサメに噛まれた傷のようです。

大型のサメによると思われる嚙み傷(腹側) 
(2026年7月8日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

大型のサメによると思われる嚙み傷(腹側)
(2026年7月8日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

傷はお腹側にもあり、一部赤い肉の色が見えていました。噛みついたサメを引き離そうともがいて、傷が大きく深くなってしまったのかもしれません。

ダルマザメによると思われる円形の嚙み傷(2026年7月8日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

ダルマザメによると思われる円形の嚙み傷(2026年7月8日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

体の左側には、ダルマザメという小型の深海サメがつけた円形の傷も見られました。ダルマザメは、噛み傷が丸いクッキーのような形であることから、英語ではCookiecutter sharkと呼ばれています。昼間は水深500〜1000mの深海にいますが、夜間になるとイルカたちが活動する表層近くまで浮上してきてイルカに嚙みつき、肉を引きちぎって食べると考えられています。
ちなみにダルマザメによってつけられた傷跡は後々まで残るため、イルカの個体識別の目印としてもよく使われています。

動画:MD サメに噛まれたと思われる傷があるイルカ 1/4スローモーション 2026.7.8 御蔵島

動画で見ると、体の右側を真横から噛みつかれたらしいことが分かります。また左側にも別の傷があることから、複数回、噛まれたと思われます。 御蔵島は、島のすぐ近くまで水深が深い外洋が迫っているので、大型のサメなど外洋生物の脅威にさらされやすい環境なのかもしれません。こういう光景を目にすると、のんびり暮らしているように見える御蔵島のイルカたちも、実は厳しい生存競争の渦中にいるということを痛感させられます。

ぼくがイルカと泳ぐ理由(わけ)

イルカを撮影する筆者(2026月年7月7日 御蔵島)Photo by YUKI KUSACHI

イルカを撮影する筆者(2026月年7月7日 御蔵島)
Photo by YUKI KUSACHI

さて、ぼくが小笠原ではじめてイルカと泳いでから今年で33年、御蔵島で本格的なドルフィンスイムを体験してから29年になります。この間「自分がイルカと泳ぐ意味って何だろう?」ということを考え続けてきたのですが、片野さんとの対話を通じてかなり言語化できた気がするので、この機会に書かせていただきます。

遊びに来てくれた子イルカ(2026年7月7日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

遊びに来てくれた子イルカ(2026年7月7日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

ドルフィンスイムが他の生物をターゲットにしたダイビングと大きく異なる点は、イルカが自らの意思で近づいて来て、餌をもらうなどの利害関係なしで人間と「遊んで」くれることではないかと思います。自分がこの30年間飽きることなくイルカと泳ぎ続けている一番の理由は、まさにこれだと感じています。
そして、高い知能と高度な社会性を持つイルカは、人間がその行動に共感したり感情移入したりできる存在でもあります。気まぐれだったり、悪ふざけしたり、時には残酷だったり、でもとっても仲間想いだったり…イルカのそんな「人間くさい」部分に、ぼくは強く惹かれているのです。

遊びに来てくれた母子イルカ(2026年7月8日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

遊びに来てくれた母子イルカ(2026年7月8日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

そして最後に、最近気が付いたことを書かせていただきます。
ここ数年は環境問題について考えることが多く、人間が海や自然、そしてイルカに対して行ってきた酷い仕打ちを顧みて、自責の念に駆られることがよくあります。自分たち人間は地球にとっては悪者で、地球の生き物たちの「仲間」に入れてもらう資格はないのではないか‥‥という思いに苛まれることもあります。
でもそんな自分にイルカたちが寄ってきてくれて、おそらく好意と思われる感情を向けてくれると、都合の良い思い込みではありますが「自分はまだ許してもらえている」「まだ地球の仲間だと認めてもらえている」という気持ちになれるのです。そしてこの気持ちが、自分が自然保護の活動を行う原動力になっているのは間違いありません。

まとめ

2026年7月8日帰りの乗船前、御蔵島港の桟橋にて(左から編集担当Hさん、草地ゆきさん、片野ゆかさん、長谷川)

2026年7月8日帰りの乗船前、御蔵島港の桟橋にて
(左から編集担当Hさん、草地ゆきさん、片野ゆかさん、長谷川)

実は今季、海況不良が続いてなかなか御蔵島に行くことができず、今回の取材も2度目のトライでようやく御蔵島に上陸することができました。ちなみに1度目のトライ(6月)では、船で竹芝から出航はしたものの、御蔵島に着岸することができず、片野さんと一緒に大揺れの船で21時間の伊豆諸島クルージングを堪能することになりました。
そんなわけで今回の取材は、まず御蔵島に上陸できたこと、そして無事にイルカと泳ぐことができたことへの感謝から始まりました。1度目に島に着けなかったことにより、自然に対する謙虚な気持ちをメンバー全員で共有できたことは、今思えば大事なプロセスだったのかもしれません。
そして、自分自身とイルカたちとの関わりについて見つめなおす良い機会にもなりました。思い返してみれば、やっぱり自分も広い意味ではイルカに「癒されて」いるのだと思います。
次回はバハマのドルフィンスイムの最新情報をお届けする予定です。乞うご期待!

片野ゆか
Yuka Katano

片野ゆか

主に動物や人と社会との関わりをテーマに数多くの作品を手がけるノンフィクション作家。代表作に『北里大学獣医学部 犬部!』『ゼロ! 熊本市動物愛護センター10年の闘い』『動物翻訳家』『平成犬バカ編集部』『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』など。2005年『愛犬王 平岩米吉伝』で第12回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2025年『平成犬バカ編集部』がNHKドラマ10「シバのおきて」のタイトルで放送。『北里大学獣医学部 犬部!』は映画化・コミック化され、多くの読者に親しまれている。「ギフト 私たちはなぜ動物に癒されるのか?」イルカ編は、「小説宝石」11月号および2027年1月号に掲載される予定。

ダイビングガイド・自然保護活動家
長谷川 潤(HASEGAWA, Jun)


素潜り・ドルフィンスイムがメインのダイビングショップdive station baseのツアーガイド。海の美しさ・楽しさ、そして環境問題を、映像・写真・文章のすべてを駆使して発信することがライフワーク。1992年に小笠原でスキューバダイビングとスキンダイビングを初体験して以来、海の魅力にどっぷりはまる。1997年からは御蔵島のドルフィンスイムに通い始め、イルカの魅力に取り憑かれる。2022年末に長年勤めていた科学館を退職し、ダイビングガイドの道に入る。また2016年に、ドルフィンスイムガイドの草地ゆきと共に「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」を立ち上げ、鳥を捕食する御蔵島の野生化ネコを捕獲・譲渡する活動を行っている。
第34回「マリンダイビングフェア2026」では、雑誌『マリンダイビング2026』保存版の表紙写真を担当し、野生のイルカの写真展やトークイベントを開催した。

長谷川 潤