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新連載 ドルフィンガイド潤さんのイルカ見聞録
第2回「利島のイルカってどうなの?」前編

ドルフィンガイド潤さんのイルカ見聞録

人気連載「野生のイルカと泳ごう!」の筆者でダイビングガイドの長谷川潤さんによるシリーズ第2弾。長谷川さんが海の中で見聞きしてきた野生イルカの行動やイルカにまつわるストーリーを、美しい写真と動画でつれづれなるままに綴っていきます。これを読めば、野生のイルカが身近に感じられ、大好きになること間違いなし!
第2、第3回は、約20頭のミナミハンドウイルカが定住している伊豆諸島、利島(としま)のドルフィンスイムについて前編と後編に分けて紹介します。

※2026年5月の情報です

はじめに

こんにちは!素潜りツアーガイドの長谷川です。今回は、伊豆諸島は利島のイルカとドルフィンスイムについて、2回に分けて書かせていただきます。まずは、百聞は一見に如かず!ということで、ぼくが2021年7月31日に撮影した動画をご覧ください。

動画:MD 利島のイルカたち① (2021.7.31)

この動画については、次の次の章「遊びだしたら止まらない!?ハイテンションなイルカたち」で解説しますが、利島のドルフィンスイムの良さ、楽しさを垣間見ていただけるのではないでしょうか?
利島のドルフィンスイムの特徴を一言で表現するならば、「ハイリスク・ハイリターン」。ドルフィンスイムの聖地として有名な御蔵島と同様に定期客船の着岸率が低く、しかも御蔵島には常時イルカの群れがいるのに対して、利島のイルカは他所にお出かけしてしまうこともあり、「せっかく島に着けたのに…イルカがいない!!(涙)」なんてこともしばしば。(これについては「後編」で詳しく解説したいと思います。)

真正面から向かってくるイルカ 2021年7月31日 利島 Photo by JUN HASEGAWA

真正面から向かってくるイルカ 2021年7月31日 利島
Photo by JUN HASEGAWA

ですが、ひとたびイルカと出会うことができれば、群れ全体でスイマーたちを大歓迎!!なんていう幸せ体験を味わうこともできます。もちろんイルカは気まぐれな野生動物ですから、休んでいたり気分が乗らなかったりということもあり、いつも積極的に遊んでくれるとは限りません。それでも肌感覚として、利島のイルカは、御蔵島などと比較しても積極的に遊んでくれる確率が高い気がしています。
そんな利島のイルカとドルフィンスイムの特徴・魅力について、今回も写真と動画をふんだんに使って解説いたします。

利島って、どんな島?

利島 Photo by JUN HASEGAWA

利島 Photo by JUN HASEGAWA

利島

伊豆諸島の利島は、東京都心から約140km南に位置する、人口約300人、面積約4平方キロメートルの小島です。中央に標高507mの宮塚山がそびえる円すい型の火山島で、周囲は断崖絶壁に囲まれています。冬は椿の花が咲き誇る、自然豊かな島です。
利島への渡航は、東海汽船を利用しての船旅になります。東京(竹芝客船ターミナル)から高速ジェット船で約2時間半、または夜行の大型客船で約7時間半〜8時間です。東京の他、下田からも「フェリーあぜりあ」が運航されています。
しかし港は島の北側1カ所のみで、波を遮ってくれる湾が無いため北寄りの風が強く吹くと船が欠航してしまい、御蔵島と同じく「たどり着くのが難しい島」なのです。

御蔵島と同じ「玉石」の海で泳ぐイルカ(2021年7月31日 利島) Photo by JUN HASEGAWA

御蔵島と同じ「玉石」の海で泳ぐイルカ(2021年7月31日 利島)
Photo by JUN HASEGAWA

利島では、1995年に御蔵島からメスのミナミハンドウイルカ「ココ」が移住して以来、御蔵島から移住するイルカが後を絶たず、2020年代には約20頭が島の周囲で暮らすようになりました。
利島は、御蔵島よりもかなり小さいですが、中央に高い山がそびえ、島の形はほぼ円形。周囲は断崖絶壁、集落は島の北側に集中している、など御蔵島との類似点が多い島です。海中も玉石の海底が多く、潜っていて時々「あれ?ここって御蔵島だっけ??」と錯覚することもしばしば。イルカたちは故郷である御蔵島と環境が酷似しているのを知って、この島に移住してきたのでしょうか?
ちなみに利島は近隣の島までの距離が近いためか、イルカが他所に移動して島にいないこともあります。

ドルフィンスイムは、ボートで島の周囲を巡ってイルカを探し、スノーケリングやスキンダイビングでイルカと泳ぐスタイル。ダイビングサービスや民宿などがツアーを実施していて、開催期間は3~11月。ツアーは通常1日2回開催。1回のツアー時間は約90分です。

遊びだしたら止まらない!?ハイテンションなイルカたち

本章では、冒頭の動画について解説しながら利島のイルカたちの魅力に迫ります(写真は動画から切り出したものです)。

真正面から向かってくるイルカ(2021年7月31日 利島)

真正面から向かってくるイルカ(2021年7月31日 利島)
Photo by JUN HASEGAWA

ホイッスルを発しながらスイマーの周囲を泳ぐイルカ(2021年7月31日 利島)

ホイッスルを発しながらスイマーの周囲を泳ぐイルカ(2021年7月31日 利島)
Photo by JUN HASEGAWA

「はじめに」の章でも書きましたが、利島のイルカたちはとにかくハイテンションで、激しく遊んでくれることが多いという印象。何頭ものイルカがまっしぐらに向かってきては、ピュイー!ピュイー!とホイッスルを発しながらスイマーの周囲をぐるぐる泳ぎ…を繰り返しています。

クリックスを発しながら顔を覗き込むイルカ(2021年7月31日 利島)

クリックスを発しながら顔を覗き込むイルカ(2021年7月31日 利島)
Photo by JUN HASEGAWA

顔を左右に振り、ギギギーというクリックスを発しながら顔を覗き込んでくるイルカ。おそらく、ぼくが構えているカメラとドーム型レンズに興味を示しているものと思われます。

水面で踊るように泳ぐ子イルカ(2021年7月31日 利島)

水面で踊るように泳ぐ子イルカ(2021年7月31日 利島)
Photo by JUN HASEGAWA

水面付近で踊るように泳ぐ子どものイルカ。陽の光と波が創り出す紋様が、プロジェクションマッピングのようにイルカの体に投影されます。自然が創り出したアートをしばし楽しむひと時。

イルカの群れ(2021年7月31日 利島)

イルカの群れ(2021年7月31日 利島)
Photo by JUN HASEGAWA

燦々と降り注ぐ朝日の下で泳ぐイルカたち。
利島で暮らしているイルカたちは、ほとんどの場合、全員一緒に行動します。つまり、会える時は全員と会えますが、島からいなくなる時も全員一緒なので、ガイドとしては悩ましい限りです(苦笑)。

子育てママもいろいろ大変…でもやっぱりハイテンション!!

利島のイルカは約20頭で、御蔵島(約150頭)と比べると少ないのですが、それでも毎年のように出産が行われ、子育て中のイルカに出会うことがあります。まずは、2021年9月1日に撮影した2組の母子イルカの動画をご覧ください。

動画:利島のイルカたち② 母子で爆遊び!

前半は、生まれて間もないと思われる赤ちゃんイルカを連れた母イルカと、母子イルカに寄り添う2頭の大人イルカ。ぱっと見ほほ笑ましい光景に見えますが…もしかするとかなりヤバいシーンかもしれません。

母子イルカと2頭の大人イルカ(2021年9月1日 利島)

母子イルカと2頭の大人イルカ(2021年9月1日 利島)
Photo by JUN HASEGAWA

最後尾のイルカが赤ちゃんをガン見していますが、これはオスの大人イルカが赤ちゃんを攻撃しようと狙っている場面の可能性があるのです。もっともこの映像だけではイルカの性別も分からず、単にこのイルカが赤ちゃんを気にかけているだけ、という可能性もあります。
ミナミハンドウイルカでは、大人のオスが血縁関係のない生後間もない子イルカを攻撃して殺す「子殺し(インファンティサイド)」の行動が研究で確認されています。
イルカのオスが子殺しを行う最大の理由は、「自身の遺伝子を残す確率を上げるため」だと考えられています。メスのイルカは子育て(授乳)をしている期間、次の妊娠ができません。しかし、育てている子を失うと授乳期間が終わり、再び早く発情(交尾が可能な状態)を迎えるようになります。オスは他人の子を殺すことでメスの発情を促し、自分の子どもを産ませるチャンスを作るのです。(参考:Mikurensis (2018) Vol.7, pp. 19-29 –みくらしまの科学– )
一見のどかに見えるイルカのコミュニティですが、実はその中でもシビアな生存競争が行われているのです。

胎児線がある赤ちゃんイルカ(2021年9月1日 利島)

胎児線がある赤ちゃんイルカ(2021年9月1日 利島)
Photo by JUN HASEGAWA

いきなり殺伐とした話をしてしまいましたが、お母さんイルカに寄り添ってヨチヨチ泳ぐ赤ちゃんイルカは、やっぱりかわいい!生まれて間もないイルカには「胎児線」と呼ばれる縞模様があるので、すぐにそれと分かります。
ちなみに今回は母子イルカの方から近づいて来てくれたため至近距離で撮影することができましたが、原則として、小さな赤ちゃんイルカにこちらから近づくのはNGですのでご注意ください。

寄り添って泳ぐ母子イルカ(2021年9月1日 利島)

寄り添って泳ぐ母子イルカ(2021年9月1日 利島)
Photo by JUN HASEGAWA

続いては少し年長さんの母子イルカ。子イルカちゃんがお母さんの背中におんぶされるようにして泳ぐ姿がなんとも愛らしいです。しかし、お母さんイルカは人間と遊びたくてウズウズ。時折、子どもそっちのけでぼくのほうに遊びに来てしまいます(笑)

泳ぎ去っていく母子イルカ(2021年9月1日 利島)

泳ぎ去っていく母子イルカ(2021年9月1日 利島)
Photo by JUN HASEGAWA

最後は、まぶしい太陽をバックに、仲むつまじく並んで去っていきました。尊い…。

まとめ

御蔵島や小笠原ほどメジャーではないけれど、野生のイルカ好きにとって気になる存在の利島。御蔵島や小笠原のドルフィンスイムの常連さんにも、利島はまだ行ったことがないという方がかなりいらっしゃいます。そんな皆さんの「利島のイルカって、実際どうなの?」という疑問にお答えすべく、取り上げてみました。

「はじめに」でも書いた通り、利島のドルフィンスイムは「ハイリスク・ハイリターン」。今回は、イルカが在島していた時の「ハイリターン」事例を中心に紹介しました。しかし実際は島にイルカがいない状況でツアーを実施することも多く、ガイドとしてはイルカがいなかった場合の「プランB」を常に考えておく必要があります。

でも‥‥はっきり言って、利島の海はイルカがいなくても楽しいのです!
次回「後編」では、イルカがいなかった場合の楽しみ方について紹介し、利島の更なる魅力をお伝えできたらと思います。もちろん新たなイルカ情報も満載ですよ。乞うご期待!!

ダイビングガイド・自然保護活動家
長谷川 潤(HASEGAWA, Jun)


素潜り・ドルフィンスイムがメインのダイビングショップdive station baseのツアーガイド。海の美しさ・楽しさ、そして環境問題を、映像・写真・文章のすべてを駆使して発信することがライフワーク。1992年に小笠原でスキューバダイビングとスキンダイビングを初体験して以来、海の魅力にどっぷりはまる。1997年からは御蔵島のドルフィンスイムに通い始め、イルカの魅力に取り憑かれる。2022年末に長年勤めていた科学館を退職し、ダイビングガイドの道に入る。また2016年に、ドルフィンスイムガイドの草地ゆきと共に「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」を立ち上げ、鳥を捕食する御蔵島の野生化ネコを捕獲・譲渡する活動を行っている。
第34回「マリンダイビングフェア2026」では、雑誌『マリンダイビング2026』保存版の表紙写真を担当し、野生のイルカの写真展やトークイベントを開催した。

長谷川 潤