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ドルフィンガイド潤さんのイルカ見聞録
第7回 超ラブリーな行動「ラビング」とは?

ドルフィンガイド潤さんのイルカ見聞録

人気連載「野生のイルカと泳ごう!」の筆者でダイビングガイドの長谷川潤さんによるシリーズ第2弾。長谷川さんが海の中で見聞きしてきた野生イルカの行動やイルカにまつわるストーリーを、美しい写真と動画でつれづれなるままに綴っていきます。これを読めば、野生のイルカが身近に感じられ、大好きになること間違いなし!第7回のテーマは、多くのドルフィンスイマーが魅了されるイルカの可愛い行動「ラビング」。御蔵島のイルカの様々なラビングを動画でご覧いただき、また海外のイルカたちの貴重なラビングシーンもご紹介します。

※2026年10月の情報です

はじめに

ラビングするイルカを間近で撮影 (2025年6月19日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

ラビングするイルカを間近で撮影 (2025年6月19日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

2頭のイルカが胸びれや尾びれで相手の体をさすりながら泳ぐ‥‥ドルフィンスイムのリピーターさんなら、そんな光景を一度は見かけたことがあるのではないでしょうか?このような行動は「ラビング」と呼ばれてます。
ラビングをしているイルカの姿は、とにかく可愛い!というわけで、「ドルフィンスイマーが見たいイルカの行動ランキング10選」とかがあれば必ず上位に食い込みそうなこのラビングについて、動画で様々なバリエーションをお見せしながら解説いたします。

イルカの不思議行動「ラビング」の基礎知識

母子イルカのラビング① (2021年10月15日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

母子イルカのラビング① (2021年10月15日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

まずは「ラビングとは何か?」という基本的な事柄についてお話しします。
「ラビング(rubbing)」とは、イルカが自分の体をほかのイルカや海底、岩、海藻、砂地などにこすりつける行動の総称です。ただし、研究分野では、イルカどうしで触れ合う行動と、イルカ以外の物に体をこすりつける行動とを区別して扱うこともあります。今回の記事は「イルカどうしで触れ合う行動」にフォーカスして書かせていただきます。

母子イルカのラビング② (2021年10月15日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

母子イルカのラビング② (2021年10月15日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

ラビングは、皮膚の手入れ、感覚刺激、社会的なコミュニケーションなど、複数の役割を持つと考えられています。この中でも、イルカどうしで触れ合うラビングは、相手との良好な関係を維持したり、社会的な繋がりを強めたりする役割が強いと思われています。
ちなみに、御蔵島のミナミハンドウイルカを対象とした研究によると、同じ性別・年齢層のイルカどうしや、母親と子どもの間でラビングがよく見られるそうです。

ハンドウイルカのラビング (バハマ・ビミニ諸島) Photo by YUKI KUSACHI

ハンドウイルカのラビング (バハマ・ビミニ諸島) Photo by YUKI KUSACHI

ラビングによる身体的な接触が、イルカどうしの緊張の緩和や関係の修復に役立っているのではないか、という説もあります。飼育されたハンドウイルカの研究では、仲間との争いの後にラビングが増える場合があることが報告されています。つまりラビングは「ケンカの後の仲直り」にも一役買っている、と言えそうです。
ちなみにハンドウイルカは、御蔵島や小笠原で会うことのできるミナミハンドウイルカと名前は似ていますが、まったくの別種です。実は少し前まで、両者は同種であると考えられていました。が、ハンドウイルカのほうが明らかに大きく、動き方や人との遊び方、鳴き声もかなり異なるため、個人的には「全然違うのに、なんで??」とかなり違和感を覚えています。

御蔵島のイルカ・ラビングシーン5選

ラビングしながら近づいてくるイルカ (2025年6月19日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

ラビングしながら近づいてくるイルカ (2025年6月19日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

さて、ここからは野生のイルカ好きな人になじみの深い御蔵島のミナミハンドウイルカのラビングシーンを5つ、動画でお見せしたいと思います。ちなみにこの5つがラビングの代表的なパターン、というわけではなく、あくまでもぼく個人が「可愛い!」「おもしろい!!」と感じたものを選んでおりますので、ご了承ください。
御蔵島のイルカは、野生個体のラビングを調べるうえで重要な研究対象でもあり、研究によって以下のことが分かっています。これらのことを頭に入れておくと、動画を見る楽しみがさらにアップするかもしれません!

●役割が入れ替わる
体をこする側と、こすられる側が、別のラビングの機会には入れ替わることがあります。
●こすられる側も積極的
体をこすられるイルカが、姿勢を変えて接触する部位を動かす様子が観察されています。
●母子間でも見られる
母親と子どもの間でもラビングが頻繁に観察されます。
●左右差がある
2006年の研究では、相手の体をこする際に左胸びれを使うことが多い、という傾向が報告されました。これは、接触時の目の使い方などと関連している可能性があると考えられています。

動画:MD ミナミハンドウイルカの母子ラビング_御蔵島 2020.7.31_2021.10.15_2021.10.16

この動画は、母子と思われるイルカどうしのラビング。別の日に撮影した3つの動画をつなげています。子イルカは母イルカに甘えるようにラビングし、母イルカは、そんな子イルカを慈しむように愛撫する…こういうシーンを見ると、水中で泣きたくなってしまうのはぼくだけでしょうか?
そして、母イルカの胸びれにご注目ください。前述の通り、2つ目と3つ目の動画では左胸びれを使っていますね!

動画:MD ミナミハンドウイルカ 尾びれと胸びれでラビング_御蔵島2022.11.13

こちらの動画は、母イルカの周りで遊ぶ子イルカ。赤くて丸い傷は、ダルマザメによる噛み跡です。ちょっと痛々しいですが、元気そうに遊んでいるのでよかった‥‥
動画の後半では、子イルカの尾びれを母イルカが胸びれでラビングしています(今回、母イルカは右の胸びれを使っていますね)。この尾びれ×胸びれのラビングも、割とよく見るパターンの一つです。

動画:MD ミナミハンドウイルカの高速ラビング 御蔵島 2020.7.31_2021.4.10

お次の動画は高速ラビングのシーン2点。なんだかコミカルで、この行動を見ると、水中で思わず笑いが込み上げてきます。前半は大人のイルカどうしが、お互い左の胸びれを主に使ってラビングしています。後半は、大人のイルカがやや大きくなった子どものイルカの頬を左の胸びれで撫でていますが、撫でられている子イルカも顔を積極的に動かしているのが分かります。前述の「こすられる側も積極的」は、まさにコレなんです。

動画:MD ミナミハンドウイルカ 手を繋いで去って行くラビング 御蔵島2022.4.24

こちらの動画は、かなり大きくなった子どものイルカ2頭のラビング。初めは1頭が仰向けになって「お腹合わせ」でラビングしていましたが、動画の中盤では、左のイルカが顔を積極的に動かして、右のイルカの左胸びれに「逆ラビング」。そして最後は、まるで手を繋いでいるかのように胸びれを接触させながら泳ぎ去って行きました。左のイルカが「ルンルン♪」している感じで体を振っている様子が可愛いすぎ!!

動画:MD ラビングしながら遊ぶミナミハンドウイルカ 御蔵島2025.6.19

御蔵島の動画のラストは、ラビングしながらカメラを持った人間の周囲をぐるぐる回る2頭のイルカ。泳ぎながらこちらをチラ見してくる様子がたまらなく可愛い!ラビングしている時は機嫌が良いのか、人間とも遊んでくれる確率が高い気がしています。そしてよく見ると、2頭の位置関係は途中で上下が入れ替わっていますね。
ちなみに前半に上側で泳いでいる、左の脇腹にひび割れのような模様があるイルカは「ゲノム」という名前が付けられた若いメスのイルカです。実はぼくはイルカの個体識別が大の苦手なのですが、このくらい特徴がはっきりした子であれば、辛うじて覚えることが出来ます(笑)。

海外のイルカのラビング

ハシナガイルカのラビング ハワイ島 Photo by YUKI KUSACHI

ハシナガイルカのラビング ハワイ島 Photo by YUKI KUSACHI

さて、ここまで御蔵島のミナミハンドウイルカのラビングを見てきましたが、下記のイルカやクジラについても、ラビングの行動が確認されています。

・ハンドウイルカ
・タイセイヨウマダライルカ
・ハシナガイルカ
・シワハイルカ
・コビトイルカ
・シロイルカ(ベルーガ)
・マッコウクジラ

ラビングは、イルカを含むハクジラ類の間で広く行われている行動だと言えそうです。この中で、ドルフィンスイムで一緒に泳ぐことができるタイセイヨウマダライルカ、ハンドウイルカ、ハシナガイルカの貴重な動画をご紹介いたします。撮影はいずれも、ぼくが勤めているダイビングショップ「dive station base」店長の草地ゆきさんです。

バハマのイルカ:タイセイヨウマダライルカとハンドウイルカ

動画:MD タイセイヨウマダライルカとハンドウイルカのラビング_バハマ・ビミニ諸島

まずは、ぼくもよく参加するバハマのドルフィンクルーズで撮影された動画。前半は世界一フレンドリーと言われるタイセイヨウマダライルカのラビングです。御蔵島のミナミハンドウイルカの高速ラビングにそっくり!?後半はハンドウイルカのラビング。ハンドウイルカはこんな感じにお腹合わせで顔を近づけて、ゆったりと一緒に泳いでいるところをよく見かけます。
前の章でも書いたように、ハンドウイルカは名前的にはミナミハンドウイルカに似ていますが、行動の様子については、両者はかなり異なる印象です。逆にタイセイヨウマダライルカとミナミハンドウイルカは、名前こそ共通点が少ないですが、ラビングをはじめとしたイルカどうしのコミュニケーションのようすも、人間との遊び方も、驚くほど似ているなぁ、と感じています。

ハワイのイルカ:ハシナガイルカ

動画:MD ハシナガイルカのラビング_ハワイ島

お次は小柄で美しい模様を持つハシナガイルカのラビング。お腹を完全に密着させて抱き合うようにラビングする様子は、超キュート!ラストは、海面に向かって上昇していく大群の中でなぜか2頭だけ一生懸命胸びれをパタパタさせている光景がシュールすぎます(笑)。
ちなみにハワイでのハシナガイルカのスイムは、イルカ保護のための規制強化で2021年以降は禁止になっています。それを考えるとこの映像は、ハシナガイルカの生態の記録としても、とても貴重なものに思えてきます。

まとめ

タイセイヨウマダライルカのラビング バハマ・ビミニ諸島 Photo by YUKI KUSACHI

タイセイヨウマダライルカのラビング バハマ・ビミニ諸島 Photo by YUKI KUSACHI

今回のラビング特集、お楽しみいただけたでしょうか?
まだイルカと泳いだことがない方は、イルカどうしのコミュニケーションの可愛さ、面白さ、多彩さに驚かれたのではないでしょうか?また既にドルフィンスイムをやっていらっしゃる方につきましては、今後のスイムにおけるイルカ観察に役立ってくれると良いな、と思っております。イルカの行動パターンをあらかじめ頭に入れてドルフィンスイムに望むと、これまで「あら、可愛い!」で終わっていたシーンに実は深い意味があることに気付かされ、イルカ観察の楽しさが大幅アップすること間違いなし! 次回は、御蔵島ドルフィンスイムの最新レポートをお届けしたいと思います。乞うご期待!

ダイビングガイド・自然保護活動家
長谷川 潤(HASEGAWA, Jun)


素潜り・ドルフィンスイムがメインのダイビングショップdive station baseのツアーガイド。海の美しさ・楽しさ、そして環境問題を、映像・写真・文章のすべてを駆使して発信することがライフワーク。1992年に小笠原でスキューバダイビングとスキンダイビングを初体験して以来、海の魅力にどっぷりはまる。1997年からは御蔵島のドルフィンスイムに通い始め、イルカの魅力に取り憑かれる。2022年末に長年勤めていた科学館を退職し、ダイビングガイドの道に入る。また2016年に、ドルフィンスイムガイドの草地ゆきと共に「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」を立ち上げ、鳥を捕食する御蔵島の野生化ネコを捕獲・譲渡する活動を行っている。
第34回「マリンダイビングフェア2026」では、雑誌『マリンダイビング2026』保存版の表紙写真を担当し、野生のイルカの写真展やトークイベントを開催した。

長谷川 潤