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写真集『自然光』が生まれるまで
むらいさちが魅せる新境地

写真集『自然光』が生まれるまで

2026年8月10日、大盛況のうちに幕を閉じた、水中写真家・むらいさちさんの写真展「自然光 Underwater w/ natural light.」。同テーマでまとめた写真集『自然光』も注目を集めています。ゆるふわ写真のパイオニアが見つけた新しい世界に迫ります。

※このインタビュー原稿は、2026年8月1日に写真展会場にて行われた「公開インタビュー」をまとめたものです。

自然光なら僕が見ている
美しい世界を表現できると思った

今回、「自然光」というテーマでまとめようと思ったきっかけを教えてください。

水中での撮影では、色を出すためにストロボやライトを使って撮影することが一般的です。海の中って、光が吸収されてしまうんですね。
一方、今回僕が挑戦したのは、「自然光」で撮影した写真のみで構成すること。つまり、人工灯に頼らず、海の中に届く太陽光のみで作品を撮影することでした。
ご存知の通り、自然光での撮影自体は何も特別なことではありません。ただ、明るい「さちカラー」を自然光で表現するのは、とても難しいんです。

じつは「自然光で作品が撮れるぞ」と最初に思ったのは、もう10年以上前。それは、OLYMPUS(現OM SYSTEM)製のカメラを初めて使った瞬間でした。水中モードが入っていて、浅いところの色味が、目で見た印象に近く出たんです。「めっちゃきれい!」って驚いたのと同時に、世界がぐっと広がった瞬間でもありました。
そこから自然光での撮影には取り組んでいて、2016年に発行した写真集『FantaSea』の中にも作品は入っています。

海と写真のことになると話が止まらないむらいさちさん(撮影:S.Torii/OM Digital Solutions)

海と写真のことになると話が止まらないむらいさちさん(撮影:S.Torii/OM Digital Solutions)

いつか自然光で作品をまとめたいという構想は長年温めていたものの、その決意を固めたのは、2年前。沖縄のチービシでこの作品が撮れた時でした。

「さち根」という場所なのですが、まずサンゴがきれい! 密度とバランス、色が美しく、水深も浅い。放射状の光も降り注いでいる。自然光での撮影にはぴったりです。
そう眺めていると、真ん中にクマノミがいる光景に出会いました。上から撮ると立体感が出せないので、下から撮ることを決めました。最初、クマノミも警戒してイソギンチャクの中に隠れてしまうんですけれど、だんだんリラックスしてきたのでしょう。ご飯を食べるために遠くに泳ぎ出し、サンゴの上に浮かび上がったのです。

たまたまこの瞬間、完璧な構図が出来上がりました。偶然が重なって、クマノミの存在感がぐっと増したんですね。シャッターを押した時に、「これはすごいのが撮れた!」と確信しました。

僕は、メインビジュアルができた時に、展示の方向性が定まります。そこから、これを超える写真を撮っていこうというのがひとつの基準。ここを超えていくことで、クオリティを上げていかなきゃいけないという思いで撮影を続けます。

同時に、自然光でまとめようと思った時、全部新作で出したいという思いがあって。過去のものを使えば、クオリティが上げられるかもしれませんが、今のカメラ機材のポテンシャルと自分のスキルと感性を合わせたときに、どんなものが生まれるのかということを常に念頭に置いて撮影してきました。

自然光で作品を撮影できるのは、どんな条件が揃った時なのでしょうか? 

とにかく明るいことです!
水深が浅いほうがいい。天気は晴れていたほうがいい。また、周辺の環境が明るい色でないと撮れないですね。びっくりするくらい撮影のチャンスは狭まりますが、数年をかけて撮り溜めることで、作品としてまとめることができました。

自然光で撮影することで得た気づきがあれば、教えてください。

撮影というのは、どうしても生き物たちに負担をかけます。しかし、自然光で撮影していると、魚が「普通の姿」を見せてくれるようになったんです。
撮り始めは生き物も警戒するんですが、しばらくするとリラックスしてきて、ご飯を食べ始めたりします。そこが一番新鮮でしたね。自然な表情が撮れることもあって、魚と近くなれた気がしました。

モニター上の文字に注目!

モニター上の文字に注目!

先ほどご紹介いただいたメインカットの他にも、自然光を象徴する写真を紹介していただけますか?

2025年の7月、沖縄本島の本部で撮影した1枚です。ナカモトイロワケハゼは、瓶に入り、卵を産みつけるという習性を持っています。いつか、ラムネの瓶に入っている子に出会えたら超うれしいなって密かに思っていたんですが……入っていたんですよ!(笑)かわいい!

瓶って青や緑、茶色など、色がついていることが多いですよね。暗い色だと自然光では撮れないのですが、ラムネの瓶は透明ですから。これは作品にしなくてはと、粘って撮りました。

次の一枚は、フィリピンのセブ島、マラパスクアで撮影した作品です。ニタリというオナガザメの仲間がほぼ確実に見られる、世界で唯一の場所なんですよ。当然、僕もニタリに寄って撮っていたんだけれども、それって「僕じゃなくてもいいよね?」っと思って。

その時、ハナダイが目に映ったんです。フィリピンには、お魚がたくさんいますし、きれいなサンゴもあります。サメって、怖いとか格好いいというイメージがあるけれど、僕が見た世界はお花畑にいるみたいでした。

透明度もやや低く、水深20mぐらいという条件だったので、色の再現は100%とは言えないのですが、サメの写真の概念を壊したいと思って撮りました。

これはどうしても大きい写真で見てもらいたくて、2年間ずっと温めてきた作品です。今回の写真展・写真集でお見せできてよかった〜。

写真集『自然光』について、こだわった点を教えてください。

自然光という作品を世の中にお見せするのがはじめてなので、挨拶がわりの一冊を作ろうという方向で制作しました。
自分が納得できるレベルのものはなかなか撮れなくて……という背景もありますが、元々点数は少なくして、一枚一枚大切に撮ったものをゆっくり見てもらいたいと考えていました。

ひとつ画期的なのが、RGB印刷※1に挑戦したこと。僕の写真って、これまでのCMYK印刷※2ではなかなか色が出ないんですよ……。僕の今までの写真集制作の歴史は、印刷との戦いなんです。今回、編集の尾崎さんとデザイナーの宮坂さんが「RGB印刷でやってみませんか」って提案してくださって。

結果、はじめて手に取った時、違和感なく最後まで見られてびっくり。水中って独特の色合いですが、色がしっかり出ていた。写真展に展示している作品とも遜色ないんじゃないでしょうか。

大きめのA4サイズなので没入感も

大きめのA4サイズなので没入感も

※1 RGBとは、光の三原色である赤(Red)緑(Green)青(Blue)の頭文字を取ったもの。スマホやパソコンのディスプレイ、デジタルカメラのセンサーなどは、この3色の光を混ぜ合わせることで色を表現しています。デジタルカメラで撮影した画像は、多くの場合がRGBカラーモードのデータで保存されるため、RGB印刷は作品の色をより忠実に再現できるといわれます。

※2 CMYKとは、色料の三原色であるシアン(Cyan)マゼンタ(Magenta)イエロー(Yellow)と、黒インク(Key Plate)の頭文字を取ったもの。雑誌やチラシなど一般的なカラー印刷物の多くは、4色のインクを重ね合わせることで色を表現しています。RGBデータで撮影された作品をCMYK印刷する際には、カラーモードをRGBからCMYKに変換して印刷することになります。

作品を拝見していると、奥行きがあり、とてもナチュラルに感じます。そのあたりは意識的に撮られたのですか?

水中撮影をしていると、目ではきれいに見えるのに、写真は青くなってしまうことがあると思います。ストロボを使えば、光が当たったところの色は再現されますが、光が届かないところは逆に奥が青くなってしまうんですね。それに違和感を感じることがあるんですよ。

僕は美しい世界を見ているのに、表現者として伝えられていないもどかしさがあって……。
その中で、この自然光であれば、限られた状況ではあるけれども、僕の目で見た世界を表現できるようになった。海ってこんなにカラフルできれいなんだよって、感じていただけたらと思います。

大きなモニターに写真を映しながらトーク

大きなモニターに写真を映しながらトーク

今後、どのように自然光というテーマに取り組んでいきたいですか?

自然光は、今までの「さちカラー」の進化系だと思っています。今ははじめたばかりで、僕自身もわくわくしているところです。

奇をてらってやっているわけではなく、自分自身も進化していきたい、新しい写真を見つけたいと思ってきた中で見つけたものです。写真を見て、よろこんでいただけたら、僕はもうそれだけでうれしいなって思います。

今回の写真集は、最初の一歩。いつか、アートブックとしてまとめたいですね。時間はかかるかもしれませんが、撮り続けていきたいです。

トークショーにご参加いただいたみなさん、ありがとうございました。

トークショーにご参加いただいたみなさん、ありがとうございました。

写真集『自然光』

写真集『自然光』

タイトル:『自然光』
サイズ:A4横
ページ:48ページ(中綴じ)
価 格:4,950円(税込)

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PROFILE

むらいさち
Sachi Murai

20歳の頃、沖縄県座間味島に移住。ダイビングガイドとして過ごす。その後ダイビング雑誌社に入社、日本を始め世界の海へ取材で訪れる。その後独立。
水中からオーロラ、足元のお花まで、心に触れた風景を独特の淡い色彩で絵を描くように撮影している。その独特な色彩は「さちカラー」とも呼ばれている。1年の多くを取材先で過ごし、雑誌や広告、講演、各メディアへの出演、写真講師など活動は多岐にわたる。
2025年には子供の頃からの夢であった南極へ陸上・水中の撮影の旅に出かける。
沖縄県座間味村観光大使。

むらいさち

ライター/山本晴美