年間125万人が訪れるダイビング情報サイト

テツ先生の新・海のいきもの
連載第12回 松ぼっくりなマツカサウオ

新・海のいきもの

ダイビングは海の生き物を観察できるサステナブルでアカデミックな遊び。知識があれば海はもっと楽しくなります。インストラクターで東海大学海洋生物学科准教授・鉄先生の連載、第12回目はダイバーに人気のマツカサウオの登場です。

※2026年8月の情報です

マツカサウオ 英名:Pineapple fish 撮影地:三保真崎 水深:21m 体長10cm Photo by Takashi Tetsu

マツカサウオ 英名:Pineapple fish 撮影地:三保真崎 水深:21m 体長10cm
Photo by Takashi Tetsu

今回は、暗闇のシャイニングスター:マツカサウオをとりあげたいと思います。
英語の表記を調べてみると、PineappleかPineconeの2通りの呼び方があるようです。どちらかというと、成魚のほうがパイナップルっぽくて、幼魚期のほうがパインコーン(松ぼっくり)に似ているように思います。最近の初等教育時の出前授業や模擬授業では、このような英語を交えた豆知識がウケるようで、生徒だけでなく保護者や教員の方々からも絶賛(思っているのは自分だけ?)されることが多々あります。
それでは、エピソードトークを交えてマツカサウオの生息環境や生態などの解説に入っていきたいと思います。

幼魚の頃はパインコーン

英名のPinecone(松ぼっくり)に似たマツカサウオの幼魚 撮影地:三保真崎 水深:18m 体長:3cm Photo by Tetsu Takashi

英名のPinecone(松ぼっくり)に似たマツカサウオの幼魚 撮影地:三保真崎 水深:18m 体長:3cm
Photo by Tetsu Takashi

幼魚期の特徴としては、ウロコの間隔が狭く、その輪郭線の黒の幅が広いので黄色と黒の割合が、ほぼ1対1です。成魚に比べるとより体高が高いので、横から見たフォルムは円形です。三保真崎では、幼魚期以降は海底のほうで観察されることが多いのですが、冬の幼魚が多く観察される時期は、まれに水深3mで見ることもあります。
本種は、狭くて暗い場所を好んで生息しているので、見つけるのも観察するのも困難な魚といえます。しかも、ターゲットライトを当てると、通称「イヤイヤ体勢」を発動し、顔を背けてしまうので、アオサハギやマトウダイと同等に真横の状態で撮影する難易度が高い魚です。

黒眼を囲むMarshmello

幼魚から倍くらいサイズアップした状態 撮影地:三保真崎 水深:20m 体長:5cm Photo by Tetsu Takashi

幼魚から倍くらいサイズアップした状態 撮影地:三保真崎 水深:20m 体長:5cm
Photo by Tetsu Takashi

成長にともなってウロコを囲む黒線が徐々に細くなっていくので、黄色の割合が増えていきます。およそこの個体で、黄色6:黒4ほどの比率といったところでしょうか。
もう一つ顕著なのは、黒眼を中心として放射状にXのような黒線があります。これは、成長に伴って不鮮明になってゆきます。私は、密かにこの模様のことをMarshmello(マシュメロ)と言っています。EDM好きな方はピンと来たと思いますが、ご存じない方はDJや音楽プロデューサーの検索ワードと共にMarshmelloで調べてみてください。

なかなか見られぬ発光器

マツカサウオ幼魚〜成魚の間のイラスト 前後の画像と同等の大きさ Illustration by Takashi Tetsu

マツカサウオ幼魚〜成魚の間のイラスト 前後の画像と同等の大きさ
Illustration by Takashi Tetsu

生息環境下においては、背ビレや腹ビレをこの素描のように突き出すことは見たことがありません。よって、サンプリングされた個体標本に基づいて模写しました。
マツカサウオは下アゴの矢印が示した2カ所に発光器があって光るそうですが、これまでフィールドの観察においては一度も見たことがありません。

成長と共にうつろう姿

前回の画像から少し大きくなった個体 撮影地:三保真崎 水深:20m 体長:5cm Photo by Tetsu Takashi

前回の画像から少し大きくなった個体 撮影地:三保真崎 水深:20m 体長:5cm
Photo by Tetsu Takashi

徐々にパイナップルのような各ウロコからのトゲトゲが顕著になってきました。ウロコをかたどる黒線は更に細くなって、黄色の割合が増加し、黒眼からの放射状のXは一段と薄くなってきました。また、幼魚期には強調されていなかった眼の上の透明な部分も顕著になってきます。

ほぼ成魚のサイズになったマツカサウオ 撮影地:三保真崎 水深:20m 体長:10cm Photo by Tetsu Takashi

ほぼ成魚のサイズになったマツカサウオ 撮影地:三保真崎 水深:20m 体長:10cm
Photo by Tetsu Takashi

このサイズまで成長すると黄色味は薄れていって、どちらかと言えばゴールドのような輝きが加わってきます。マツカサウオは、骨格の構造というよりは、表皮が硬いウロコで覆われていることが理由で、全身を左右に動かしたような泳ぎ方ができません。つまり膜のあるヒレを使った非常にゆっくりとした動きしかできないため、捕食魚に狙われる可能性が高い魚といえます。

鋭利な棘は身を守る術?

マツカサウオの成魚 撮影地:三保真崎 体長15㎝ 水深18m Photo by Tetsu Takashi

マツカサウオの成魚 撮影地:三保真崎 体長15㎝ 水深18m
Photo by Tetsu Takashi

この大きさになると腹ビレの棘が体長の1/3ほどの長さに達します。背ビレも腹ビレも折りたたんでいるので目立ちませんが、相当に鋭利な状態なので、役割としては捕食されることをガードする対策ではないかと考えられます。

図鑑に載せるなら左向き

お気づきの方もいらっしゃると思いますが、素描以外の写真は全て右を向いています。わざわざ右向きの写真をチョイスしたわけではなく、厳選した写真がたまたま右向きだったのです。そんな事をあえていう理由は、基本的に図鑑に採用される写真の魚の向きは左向きだからです。したがって、その辺を意識したり考慮したりする場合、私たちは左を向いた状況を狙います。しかしながら、冒頭でも述べたように「いやいや体勢」を発動する種に関しては、真横の状態が得られればシャッターを押すより他ありません。マツカサウオに限らず、今後は図鑑に写真が掲載されることを夢見て、魚の写真は左向きで記録しておくと良いと思いますよ。

Profile

鉄 多加志
Tetsu Takashi

1965年(昭和40年)生まれ 静岡市出身
東海大学海洋学部 海洋生物学科准教授

鉄 多加志

ダイビング歴41年、潜水時間約1万3800時間。
国内70数カ所、海外20数カ所を含む約100カ所で潜っている。「ひとつの知識と経験が、同じ場所の同じ風景、生物をもっと魅力的にする」というモットーの下、同じ場所に潜って観察を続けるダイバーで、潜水歴の約8割は三保真崎。大学でも、「好奇心を持ち続けることで、同じ風景や生きものが同じように見えることはない」という観点で履修学生を指導している。

専門は潜水法で「浅海域での長時間潜水時におけるEANガス使用の研究」、「水中遺跡(沈船)潜水調査における安全対策の検討」「水中遺跡(沈没船)調査における安全な潜水方法の研究」(いずれも東海大学海洋研究所研究報告)をはじめ研究論文は多数。

主な著書(共著)に、オーシャンエクササイズ、駿河湾学、海洋考古学入門(いずれも東海大学出版)、THE DEEP SEA(静岡新聞社)、図版 世界の水中遺跡(グラフィック社)などがある。