年間125万人が訪れるダイビング情報サイト

テツ先生の新・海のいきもの
第10回 祝!ダイバーお気に入りの生きもの
人気ナンバーワン! ウミウシ

新・海のいきもの

当サイトのWebアンケート結果を分析する連載「ダイバー調査」の「お気に入りの生き物」で、人気ナンバーワンに輝いたのが英語圏でSea slugと呼ばれるウミウシ。早速、東海大学海洋生物学科准教授でインストラクターのテツ先生が独自の切り口でウミウシを解説!

※2026年6月の情報です

英語圏の総称はSea slugやNudibranch

今回は、マリンダイビングの連載「ダイバー調査」第9回のお気に入りの生物ランキングで、マンタ、ウミガメ、イルカを押し退けて1位を獲得したウミウシを取り上げます。ただし、多分皆さんの既成概念とは違う角度の種を対象として解説をしますので、その点を予めご了承ください。
ウミウシは英語の表記で、Sea slugやNudibranchが総称として使われます。Slugはナメクジを指す単語なので、日本人的には少なからず違和感がありますが、近似種のアメフラシをSea hareやSea Cowと言ってしまうあたりからすると、それも真なりと感じてしまいます。
もう少し踏み込んで話をすると、やはり近似と考えられるヒラムシに関しては、英語圏ではMarine Flatwormが使われています。海の生物は、基本的にSea○○が使われますが、特異的な例としてヒラムシにはMarineが適応されています。

※編集部注釈 ウミウシの分類も参考にしてください

びっくりサイズのウミウシ

イッサイフシエラガイ 英名:Warty Sidegilled Slug 撮影地:三保真崎 水深:7m 体長30cm Photo by Takashi Tetsu

イッサイフシエラガイ 英名:Warty Sidegilled Slug 撮影地:三保真崎 水深:7m 体長30cm
Photo by Takashi Tetsu

今回の主役となるイッサイフシエラガイの「いっさい」は、高知県大月町の一切地区から採取したことからこのように呼ばれていて、小さくて高齢者(ローガンズ)に歓迎されないウミウシの概念を超越する大きさの種で、ミカドウミウシに次ぐサイズの種となります。それでは早速、生息環境や生態などの解説に入っていきたいと思います。

突起や色、模様で個体識別

イッサイフシエラガイ 撮影地:三保真崎 水深:12m 体長:25cm Photo by Takashi Tetsu

イッサイフシエラガイ 撮影地:三保真崎 水深:12m 体長:25cm
Photo by Takashi Tetsu

三保真崎で観察されるイッサイフシエラガイは、内湾の水深が浅く、5〜12mほどの転石の多い場所で見ることができます。外海でも観察されますが、個体数や観察例から考えるとやや内湾を好むようです。英語名のWartyはこのウミウシの特徴であるイボイボの突起を示す言葉で、学名のMamillatus をSidegilled Slug の前につけることもあります。この突起と模様あるいはカラーリングで個体識別ができるので、現状の個体数を正確に知ることができます。昨年は、三保半島の内海で12個体、外海で4個体が観察され、過去最高の観察個体数を記録しました。今年も順調に4個体が観察され、産卵も始まっています。

メロンパンは北に拡大中!

交接するイッサイフシエラガイ 撮影地:三保真崎 水深:6m 体長:25cm Photo by Takashi Tetsu

交接するイッサイフシエラガイ 撮影地:三保真崎 水深:6m 体長:25cm
Photo by Takashi Tetsu

似たようなエリアにいるとは言え、広い海の中で一体どうやってこのペアは出遭うのでしょうか。繁殖期を迎えると、どこからともなく集まってくるので、何がしかの誘因物質が海の中で拡散しているのではないかと推察するのですが、潮の流れや生息する水深の違いで、そのケミカルサインを種同士で感じ取れるかどうか、その確率は低いように思えてしまいます。しかしながら、前日は数十mも離れていた個体が、翌日には上の画像のように交接しているのを見ると「赤い糸」でも張っていたのかと疑ってしまいます(笑)。

イッサイフシエラガイの卵塊 撮影地:三保真崎 水深:12m 大きさ:10cm Photo by Takashi Tetsu

イッサイフシエラガイの卵塊 撮影地:三保真崎 水深:12m 大きさ:10cm
Photo by Takashi Tetsu

三保における観察記録をさかのぼってみると2008年の画像データがありました。この当時は、形がメロンパンに似ていることから「メロンパンウミウシ」などと呼ばれていました。
このゼニガタフシエラガイ属のウミウシの報告と和名の提唱は2016年に中野里枝先生と松田早代子さんによるものです。現在は、相模湾での採取の記録もあることから、もともと南方系だった本種が徐々に生息域を北へ拡大する状況が続いているように思います。
ウミウシというテーマから、多分、皆さんが期待されていたのはピカチューやアオウミウシではないかと思いますが、三保真崎を生物の指標軸にしている私にとっては、イッサイフシエラガイが特別で思い入れの深いウミウシなのです。

アオウミウシ 英名:Blue sea slug 撮影地:三保真崎 水深6m 体長3㎝ Photo by Takashi Tetsu

アオウミウシ 英名:Blue sea slug 撮影地:三保真崎 水深6m 体長3㎝
Photo by Takashi Tetsu

タイトルのビジュアルをアオウミウシにしておいて、何も触れないままフェードアウトするのは釣り広告みたいで後ろ指を刺されそうなので、頻度や大きさ、知名度の点においてイッサイフシエラガイと対局をなすアオウミウシについて少し、お話しましょう。

このウミウシは一年中見られるわけではありませんが、比較的長い期間観察できる種です。よく見られる普通種なので見過ごされがちですが、ボディを彩るベースの青色の濃淡や、正中線・縁取りの黄色が織りなす模様には個体ごとの違いがあり、加えて全身に散りばめられた黄色と黒色のドットも個体ごとにさまざまな表情を見せてくれます。その華やかさは、学名の種小名※1festiva(華やかな、祝祭の)」の由来を裏付けるものです。
イッサイフシエラガイがカラーリングや模様、形状などで見分けられるように、実はアオウミウシも色の濃淡や模様などで区別ができるウミウシなのです。

※1 生物の2名法による学名で属名の後ろに続く名称。その種の特徴を表し、ラテン語化した形容詞を用いる。

Profile

鉄 多加志
Tetsu Takashi

1965年(昭和40年)生まれ 静岡市出身
東海大学海洋学部 海洋生物学科准教授

鉄 多加志

ダイビング歴41年、潜水時間約1万3800時間。
国内70数カ所、海外20数カ所を含む約100カ所で潜っている。「ひとつの知識と経験が、同じ場所の同じ風景、生物をもっと魅力的にする」というモットーの下、同じ場所に潜って観察を続けるダイバーで、潜水歴の約8割は三保真崎。大学でも、「好奇心を持ち続けることで、同じ風景や生きものが同じように見えることはない」という観点で履修学生を指導している。

専門は潜水法で「浅海域での長時間潜水時におけるEANガス使用の研究」、「水中遺跡(沈船)潜水調査における安全対策の検討」「水中遺跡(沈没船)調査における安全な潜水方法の研究」(いずれも東海大学海洋研究所研究報告)をはじめ研究論文は多数。

主な著書(共著)に、オーシャンエクササイズ、駿河湾学、海洋考古学入門(いずれも東海大学出版)、THE DEEP SEA(静岡新聞社)、図版 世界の水中遺跡(グラフィック社)などがある。