第5回 擬態編
地球上の生き物は「自分ではない別の何か」に姿や動きを似せていることがよくある。一般にそれらを擬態と一言で呼んでいるのだが、よ~く見てみると擬態にもいろいろあったりする。じゃあ、海の中ではどんな擬態があるんだろう?
擬態とかカムフラージュとか?
ダイビングでよく見かける例は、周囲の環境に溶け込んでいるパターン。例えば、ダンゴウオ(写真左)やウミトサカの幹などにいるシースルーのスケロクウミタケハゼなどだが、擬態というほどではなくカムフラージュという程度。が、ピグミーシーホース(写真右)になると、体にヤギのポリプそっくりなコブまであって見事な変装術。
ダンゴウオ(幼魚)
茶色の海藻の上にいる茶色のダンゴウオ。冬から春、日本各地で見られる指先ほどの小さな魚。写真は幼魚
ピグミーシーホース
赤いヤギで暮らす赤いピグミーシーホース(タツノオトシゴの仲間)。黄色っぽいヤギには黄色の個体がいる
「食」のためです。
以上で紹介した例は身を隠すための擬態だが、獲物をおびき寄せるため(または獲物に近寄りやすくするため)という、積極的な擬態もある(攻撃擬態)。 有名&人気どころではカエルアンコウの仲間がいる。典型的な待ち伏せ型ハンターだが、ただ待つだけではなく背ビレの一部が変形して生じた釣り竿(イリシウム)と疑似餌(エスカ)を振って獲物をおびき寄せる。
典型的な攻撃型擬態にはニセクロスジギンポがいる。クリーナーとして魚社会に広く知られるホンソメワケベラそっくりの姿をしており、魚が「こいつはホンソメだから安全」と思って油断しているすきにヒレや体表を囓り取ってしまう。泳ぎ方まで似ているのだから徹底している。
「モノ」のふりです。
海の中には枯葉や千切れた海藻のふりをする生き物がいっぱい。季節来遊魚として近場の海でも見られるナンヨウツバメウオの幼魚、テンスの幼魚、各種ベラの幼魚など、まだ体の小さな幼魚によく見られる。
ほかにも石に化けるオニダルマオコゼ、岩に擬態するカサゴなどもここに入る(攻撃擬態という一面もある)。
「まずい」ふりです。
そして何と言ってもベーツ型擬態がおもしろい。これは「有害・有毒な生物をモデルとする擬態」のことで、ぶっちゃけ「食べると不味い」「食べると死んじゃう」という生物の姿や動きを真似ている。
フグのふり
有毒魚といえばフグ。内臓や生殖腺、皮膚などにテトロドトキシンという猛毒をもつことが知られている(種類によって部位や毒の強さはいろいろ)。これを利用しないテはない! というわけで、シマキンチャクフグのふりをしているのがノコギリハギ。どちらも大きさ6cm程度なので、海の中では識別しづらいかも。
ウミウシ&ヒラムシのふり
ウミウシは前回取り上げたので細かい説明はこちらをどうぞ!
ヒラムシとは扁形動物というグループに属する、平べったい生き物。原始的でシンプルな体だが、派手な模様であったり、人気のウミウシとよく似た種類がいたりして、生物オタクには意外と人気者。 そして、ウミウシもヒラムシもどちらも食感が悪いのか毒があるのか、魚の餌としては非常に不人気。そんな彼らに似ていることは生存に有利であることは容易に想像できる。というわけで、奇抜な模様とヒラヒラした泳ぎでウミウシやヒラムシのふりをする生き物は多く、ベラやコショウダイの幼魚たちによく見られる。他にも探せばいっぱいいるかも!
アカククリの幼魚(写真左)の独特の模様と動きは、有毒のヒラムシ(写真右)に擬態したものと言われている。ただし、写真のヒラムシがアカククリの擬態モデル種そのものではないかも。