第7回 クリーニング編
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魚の体には寄生虫がいっぱい付いている。
あるいは、ケガをした部分が一部腐って治癒を妨げたり、ウロコがはがれかけたりすることも。
人間なら手や指、ピンセットなどを使って取り除くところだが、魚には無理な相談。
そこで登場するのが、魚の体表にいる寄生虫などを取り除いてくれる生き物たち。
まるで掃除しているかのように見えるため、この行動をクリーニングといい、
クリーニングを行なう魚や生物はクリーナーと呼ばれている。
本家本元のホンソメワケベラ
クリーナーといえば、誰もが知っている有名魚がホンソメワケベラ。独特の模様と、上下に跳ねるようなユニークな泳ぎ方をするのでよく目立つ。これは「ぼくはクリーナーです。掃除してもらいたい魚は寄ってらっしゃい」という合図であり、また身を守るための手段。実際、ハタやウツボなどの大型魚食魚もホンソメワケベラには手を出さない。
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大きく口を開けたニセゴイシウツボに、3尾のホンソメワケベラがまとわりついている。口の奥まで入り込んでいて何だかハラハラするが、ウツボも相手はクリーナーと知っているので食べてしまうことはない。撮影地/モルディブ
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これはホンソメワケベラの幼魚。親とはちょっと模様が異なるが、独特の泳ぎ方は同じ。ちなみに、ホンソメワケベラは「ホソソメワケベラ(細染め分けベラ)」と名付けるつもりが誤植でホンになったとか。撮影地/東伊豆・富戸
クリーニングステーション
海の中では、なぜか不自然に魚が集まってくる場所がある。
よ~く見てみると、そこにはたいていホンソメワケベラがいることに気づく。ホンソメワケベラにはもともとナワバリをつくる習性があり、掃除してもらいにこうした魚が訪れる場所はクリーニングステーションと呼ばれている。
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すぐ近くに群れが浮いていて、そこから数尾が入れ替わり立ち替わりクリーニングを受けにやってくる。興奮しているのか恍惚の表情なのかヒメジたちは体色が赤っぽくなったり逆立ち状態になったり。撮影地/ニューカレドニア
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世界のマンタスポットはクリーニングステーションであることが多い。マンタだって寄生虫には悩まされているのだ。マンボウやハンマーヘッドシャークがやってくるクリーニングステーションもある。撮影地/ニューカレドニア
エビさんも負けてない
クリーナーにはホンソメワケベラなどソメワケベラの仲間、シラコダイやカリブ海のバーバーフィッシュなどチョウチョウウオの仲間などがいる。こういった魚以外には、エビの仲間にもクリーナーがいる。
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ドクウツボをクリーニング中のアカシマシラヒゲエビ。白く長い触角がよく目立ち、オトヒメエビやホワイトソックスといったクリーナーシュリンプも同様の特徴をもつ。もしかすると、「私はクリーナーですよ」という信号なのかも? 撮影地/インドネシア・バリ
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岩穴や亀裂に潜むベンテンコモンエビ(写真)やソリハシコモンエビもクリーナーとして知られている。透明なボディに白と赤の小紋模様で、跳ねるような泳ぎ方も共通している。これらもクリーナーとしての制服なのかも? 撮影地/パラオ
気が向けば人間もお掃除します
クリーナーはときに魚以外も掃除するらしく、クリーナーシュリンプがいるところにダイバーが手を出すと、「お、お客さんが来た」とばかりにまとわりついてくることがある。何やらくすぐったい気分。
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ミカヅキコモンエビもクリーナー。たいてい十数尾が群がりをつくっている。撮影地/西表島
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和名も、和名の由来の黄色のラインも大変美しく、マクロ派におすすめの美人さん水中モデル。撮影地/西表島
巣穴以外もお掃除します
ハゼが見張り役で、テッポウエビが巣穴づくりや修繕を担当するという、相利共生の例として超有名なこの組み合わせ。それだけではなく、テッポウエビがハゼの体表をクリーニングするという行動も観察されている。そのお返しなのか、ハゼはエビの餌となる藻類の切れ端を巣穴に運んだり、エビがハゼのフンを食べるというから驚きだ。二重三重にも助け合っているというか、利用し合っているというか。切っても切れない縁とはこのことか。
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ヒレナガネジリンボウとコトブキテッポウエビという組み合わせ。どちらも美しいので目の保養。撮影地/沖縄本島