海のいきもの
第30回 ご近所のハナダイさん
お花見シーズンは終わってしまった地方が多いけど、桜はソメイヨシノだけじゃない。
まだ山桜や八重桜は見られる季節。ということで、頭に浮かんだのがサクラダイ(写真上/オス)。
とはいえ1種類だけでも寂しいので、今回はご近所の海で見られる代表的な2種類と、
あとちょっと深場の連中を紹介いたします。●構成・文/山本真紀(2017年4月制作)
ハナダイの仲間とは・・・・。
ハナダイの仲間は「ハタ科ハナダイ亜科」というグループに分類され、世界の海で170~180種ほど確認されている。大きさ10~15cm程度の小型種が多い。色は暖色系で模様も華やか、オスとメスで模様が異なる種類もあり(今回メインで紹介するサクラダイとキンギョハナダイなど)、何かとオタク心を刺激するオサカナたち。
また、釣り人や鮮魚店などでは、チダイのことを「ハナダイ(花鯛)」、マダイのことを「サクラダイ(桜鯛)」と呼ぶことがある(いずれもタイ科)。この場合は通称・俗称等であり、標準和名ではないのでご注意を。
キンギョハナダイ
伊豆半島や紀伊半島、伊豆諸島などの潮通しのいい岩礁で普通に見られるハナダイ。水深数m程度から生息しているので、スノーケリングでも見られる。潮が流れてくると、中層に泳ぎだしてプランクトンを捕食する。写真のように大きな群れをつくり、特に初夏から秋にかけては規模もサイズもグレードアップして見もの。大きさは5~10cm。
●分布/南日本の太平洋岸、伊豆・小笠原諸島、福岡県、琉球列島;インド-太平洋 ●撮影/三宅島
キンギョハナダイの♂と♀
キンギョハナダイはメスからオスへと性転換することが知られており、雌雄で模様が異なる。
◆写真①/キンギョハナダイのメス(または未成熟個体)の群れ。体全体がオレンジ色で、特に目立った模様がなく名前の通り金魚のようにも見える。撮影/伊豆海洋公園
◆写真②/キンギョハナダイのオス。背ビレの第3棘が長く(白っぽいので水中でよく目立つ)、胸ビレに赤紫色の斑紋があることが特徴。撮影/西伊豆・大瀬崎
キンギョハナダイの群れは雌雄が混泳しているが、一般にメスのほうがかなり多い。オスの割合は1~3割程度という(たまにオスだけで群れていることもある)。赤丸で囲った個体がオスで、特徴である背ビレから伸びる白い鰭条が見えている個体は少ないものの、胸ビレの赤紫の斑紋はよくわかる。
なお、赤丸で囲っていないオスやスズメダイの仲間も少々混ざってます。すいません。●撮影/三宅島
キンギョさんはワールドワイド
キンギョハナダイはインド-太平洋に広く分布している。メスはどの海でも同じような感じだが、オスの体色には紅海・モルディブ・アジア・南太平洋などで地域差が見られることから、それぞれが別種ではないかとする研究者もいる。
写真はインド洋で撮影されたもので、伊豆半島のキンギョハナダイと比較すると、オスの赤味がかなり濃いことがよくわかる。●撮影/モルディブ
サクラダイの♂と♀
サクラダイ
和名にも学名(Sacura margaritacea)にも「さくら」と入る、日本を代表するハナダイの仲間。以前は日本固有種と思われていたが、海外からも報告があって少々残念。成長すると12~15cmとなる。潮通しのいい岩礁に生息し、やや深場が好みで水深20~25m以深でよく見られる。写真のように雌雄で混泳していることもあれば、ときにオスだけで群れをつくることもある。●分布/南日本、伊豆諸島、台湾 ●撮影/西伊豆・田子
サクラダイはサイズも大きいし模様もハッキリしているため、性転換中の個体がわかりやすい種類。ぜひ海でもじっくり観察してみよう。
◆写真A/真珠模様が美しいオス。サクラダイもキンギョハナダイ同様、雌性先熟の性転換を行なう。
◆写真B/メスには真珠模様がない。背ビレに黒斑があることで、他のハナダイのメスと識別しやすい。
◆写真C/メスからオスへと性転換中と思われる個体。オスの真珠模様がうっすらと現れているが、背ビレにはまだメスの黒斑が残っている。
ちょっと深場のハナダイさん
ハナダイの仲間には、艶やかな衣装のくせに意外と深場が好きな種類が多い。ここに紹介した以外にも、近場の海ではアカオビハナダイやアサヒハナゴイなどの種類がいる。会えたらラッキー程度に考え、安全ダイブを。
スジハナダイ
岩礁に生息。伊豆半島では水深20mくらいで見られるかも。赤い筋は老成すると薄くなる。大きさ10cm前後。
●分布/南日本の太平洋岸、八丈島、琉球列島;インド-西太平洋 ●撮影/紀伊半島・須江
キシマハナダイ
1970年代、伊豆海洋公園の水深50mで発見され、1980年に新種記載された。大きさ7~8cm。●分布/相模湾、伊豆・小笠原諸島、和歌山県、沖縄舟状海盆;トンガ海嶺、メラネシア ●撮影/伊豆大島
シロオビハナダイ
1982年、伊豆海洋公園の水深40mから採集された個体を基に新種記載された。体側中央の白帯が特徴だが、不明瞭なこともある。大きさ10cm前後。●分布/伊豆半島、伊豆大島 ●撮影/伊豆海洋公園
マダラハナダイ
出会えたら超ラッキー。成長すると12~13cmになるが、ダイバーが出会うのはおチビさんのことが多い。●分布/南日本の太平洋岸、伊豆・小笠原諸島、琉球列島;西部インド洋、台湾 ●撮影/西伊豆・大瀬崎