DIVINGスタート&スキルアップBOOK 2015
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第4回 海の"ビッグ 5"を撮る!
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第4回 海の"ビッグ 5"を撮る!
皆さんこんにちは、石川です。今回は
「海の"ビッグ 5"を撮る!」
イルカ・アシカ・カジキ・ジンベエ&マンタと、海の5大スター選手に大接近、迫力の映像をものにしよう!がテーマです。
旬の撮影地と撮り方ハウツー&現地ガイドさんのベストシーズンアドバイスをお伝えします。
【カメラ機材】
使い馴れたものが一番ですが今回は泳ぎながらの撮影が大前提。ダイビングやスノーケリングに自信のない方はコンデジにワイコン(ワイドコンバーターレンズ。カメラ本来の性能よりも広い画角で撮影ができる後付けの機材)を装着したほうが無難。さらにコンパクトなウェアラブルカメラ(GoProやSonyのアクションカムなど)も携帯性抜群。画質にとことんこだわるビデオフリークなら最新のミラーレス一眼カメラもしくは10万円~クラスの小型ビデオカメラ市場が熱い。
撮影の基本事項おさらい
① 広い視野でダイビング 移動感を演出する
瞬間を切り取る写真と異なりカメラを固定してじっくり撮影するマクロムービーの第一歩は、逃げない生物探しから始めます。ウミウシ、ミノカサゴ、カエルアンコウやウツボなど岩場周辺に暮らす生物や、エビ・カニ系。またはイバラカンザシやケヤリなども艶やかでムービー向きの被写体といえます。近寄っても逃げない生物を最短撮影する場合はズームレンズの性質上ワイド側で撮影します。そのほうが生物に寄って撮れるからです。この辺りのテクニック的なことは後述します。
② カットバリエーションを多く撮る
映像は写真と異なりベストカット(例えば補食シーンなど)だけ撮ったのでは不十分で、そこに至るまでのドラマ(映像)が重要。これを専門用語で「つなぎ」といいます。基本的に・ロング(遠景として環境が判る程度)・ミドル(被写体中心の風景)・バストショット(被写体のアップ)の3つは常に意識しておきましょう。
③ "手ブレ"しないように撮る
録画ボタンを押す直前には安定姿勢をとる。着底できる場所があればよいがシチュエーションに応じて、中性浮力のスキルが要求されることになります。
撮影中、呼吸は常に一定のリズムで行うか止めてしまいましょう。ボクの場合は鼻からマスク越しに排気します。そのほうが細かい泡となってマスクの上部から出されるので振動が少ないです。
一般的ではない作法ですのでおススメできませんが試しにやってみてください。案外いいですよ!(ただし、慣れないうちはマスクが曇る原因となりますので、ご注意を)。
プロの現場では手ブレを防ぐために水中三脚を用いて完璧を期す場合もありますが、三脚だけでもかなり重いので、水中での移動にバルーンを用いることも・・・。
④ カメラを振り回さない
動きのある被写体を狙う場合、その動きに翻弄されずに最初はワイド側から全体を捉えてみましょう。徐々に画角を詰めていき自然に写り込んでくるようなポジションにカメラを移動します。
⑤ ズームは多用しない
水中は陸上と異なり常に水のフィルターがかかっているので、光や色、透明度次第で映像の印象が異なってきます。クリアで迫力あるシーンを写し込むには望遠(ズーム機能)に頼らずワイド側で被写体に近寄って撮るのが鉄則!です。常に引き算の世界です。
⑥ 長回しをしすぎない
よほどの被写体でないかぎり一回のクリップは15秒~20秒(テンポの良いPV=プロモーションビデオにするなら必須)ショート&ショートでクールな映像を!
⑦ 被写体を知る
近寄っても逃げない生物、砂地に引っ込んだらなかなか出てこない生物など、被写体へアプローチは千差万別。水中の限られた時間では生物の生態や生息するロケーションの知識が結果を左右します。これは場数を踏む以外はないでしょう。初めのうちは海を熟知した現地ガイドさんと一緒に潜ることをおススメします。
⑧ カメラ&ハウジング操作に馴れる
同じカメラでもムービーと写真ではボタン操作が異なるのでとっさの時に使い慣れたシャッターボタンに指をかけてはいないだろうか? 水中の環境下でカメラを自在に扱うのは馴れが必要だ。といってもよく使う操作は限られるのでそれだけはしっかり体得しよう。
被写体別攻略法
メキシコのアイドル『ラパスのアシカ』 ベストシーズン:10~11月
ラパスの港からボートで1時間くらいの大きな岩の島"ロスイスロテス"はアシカの暮らすコロニーがあってダイバーに人気のにぎやかなスポット。
メキシコのバハカリフォルニアに生息するアシカは3~5月が出産シーズンで、生まれて数週間もすると赤ん坊のアシカは入り江の浅場で泳ぎ出し、夏が過ぎて10~11月くらいになると好奇心いっぱいの子供アシカに成長して、ダイバーと遊んでくれます。動画を撮影した11月もまさに"旬"でした。大きなカメラを持ったダイバーだろうと彼らにはただの遊び相手に見えるのか、現地で一緒に撮影していた友人カメラマンも子供アシカにメロメロ。「楽しくって写真が撮れない~~」とトロケていました。プロをも骨抜きにするアシカの子供、おそるべし・・・。
陸上でのネイチャー系の映像の場合、被写体との距離をいかに縮めることができるかが作品の出来に大きく左右します。それは海の生物でも同じこと。
ロスイスロテスの場合、ゾーンAとよばれる水深5~6メートルの明るい砂地で正面中央の岩場が最も撮影に適したポイント。自然光もよく入りじっくりと着底してカメラを構えることができるので、ビギナーの方も安心して撮影できます。初めのうちはガイドの側にいてアシカとのコミュニケーションの取り方を教えてもらいましょう。子供アシカがこちらに興味を持って近寄ってくれれば顔のアップなども狙えるはず。遊ばれすぎて僕の友人カメラマンのようにならぬよう、ご注意あれ!
ここでは、かわいい子供アシカに気を取られてついダイバーと戯れあうシーンだけを撮りがち。ですが、ここは彼らの生息地。もっと自然な仕草や周囲の環境もフォーカスすることで出来上がった作品に深みが生まれてくるでしょう。 (石川カメラマン撮影のラパス特集、2/10発売の『マリンダイビング』3月号に掲載!)
『御蔵島のイルカ』 ベストシーズン4~8月(ただし夏は混雑します)
例年4月後半から10月がオンシーズン。4月は水温が低いのでインナーやボートコートなど万全の装備で挑みましょう。一般的には5~6月がベストシーズン。母イルカにピタッッと寄り添う子イルカを近くで撮影できるでしょう。
当然、野生のイルカたちは気まぐれだしかなり泳ぎが速い。こちらはスノーケリングだから結構体力を消費しますが、ガイドや船長さんのかけ声に集中してタイミングよくエントリー! タイミングが合わないとイルカを見逃すことになりますよ。
遭遇して一瞬が勝負なので、エントリーが上手な人ほどチャンスが多いわけです。マスクにはしっかり曇り止めをしてスノーケルを装着。フィンを履いて待ちます。ウエットスーツを着ているのでそれなりにウエイトが必要ですが、水中で万一ブラックアウトした際のリスクも考えて調整してください。水中撮影は安全が第一。くれぐれも無理なチャレンジは避けること!
カメラはレック(録画)ボタンを押すだけにしてエントリーしますが、水中でイルカが見えてからボタンを押したのでは遅いです。カメラのオートフォーカス調整に時間がかかってピントが合う頃にはイルカははるかかなた・・・。
カメラがイルカを捉えたらガチャガチャ振り回さないでスムースに取回すこと。イルカのスピードにカメラのパーン(左右に振ること)が追いつかずフレームアウトしても深追いしない。むしろカメラを固定してイルカたちにフレームインやアウトを演じさせるのも"手"だと割り切ってみましょう。
『メキシコ イスラムヘーレスのバショウカジキ』 ベストシーズン:1~3月
毎年1月から3月まで冬のメキシカンカリブに出現するベイトボウル(イワシの群れ)を狙って数十匹の群れをつくるバショウカジキたち。ボートキャプテンはバショウカジキと同じ獲物(イワシの群れ)を上空から狙う海鳥探しから始めます。
撮影の拠点となるのは"イスラムヘーレス"という島の数キロ沖。
朝出航して直ぐに見つかることもあれば一日中大海原を漂うこともあります。
2013年に放送したBS11のドキュメンタリー番組「最速のプレディター」の撮影では、人間を気にせずもの凄い速さで群れに突っ込むバショウカジキを撮影。最初は大きかったベイトボールもみるみる小さくなってしまった。
時速100㌔のスピードでイワシを追い、カメラに向かって突っ込む迫力は圧巻で、ビデオカメラは回しっぱなしでした。
手順としては
① ボートから音を立てないようにゆっくりエントリーする。
② 至近距離でカジキの群れを確認できるならこの時点でレック(録画)ボタンを押す。モニターに赤い録画中マークが点灯していることを確認。
③ できるだけ手ブレさせずに最前線まで泳ぐ。
④ 目の前の壮絶なシーンをクリアな映像にするためには可能な限り近づきたい。カメラに合った広角レンズを装着しよう。フィッシュアイでもOK。コンデジならハウジングの外側に付けるワイドコンバージョンレンズを装備するとよい。
水温25℃。体を動かすスノーケリングでの撮影のためか思ったほど寒くなく3㎜のウエットスーツまたはラッシュガードで快適。
ボートに上がったらロングタイプのボートコートで保温してまたエントリー!
フィンは使い慣れたモノがよいがこれから購入するなら推進力のあるフルフットタイプのラバーフィンがおススメです。
この時期はノルテ(北風)が吹くので酔い止めは持っていったほうが無難。せっかくのカジキを前にして船酔いでギブアップは悲しいので。
『セブ島・モルディブ・メキシコのジンベエザメ』
昔のダイバーは「一度でも見てみたい!」と願ったものだった憧れのジンベエザメ。最近ではセブ島オスロブからモルディブのアリ環礁やメキシコのラパスやカリブ海側までジンベエさんのオンパレード! 『マリンダイビング』本誌でも度々紹介されてきたので行かれた方も多いのでは?
【攻略法:オスロブ編】
基本的にボートに乗った係員から餌を貰いながら立ち泳ぎをしている姿は画にならない。
視野の中に10頭以上も群れるスポットなので、本来の泳ぎを見せるまでしばし観察して待ちましょう。オスロブのジンベエは他の場所と違ってゆっくり泳いでくれるので楽しみながら撮影場できるのがいいですね。
ダイビングに際してローカルルールがあるので遵守しましょう。
【攻略法:モルディブ編】
アリ環礁をまわるサファリボートのお約束、ジンベエスイム!
何度もジンベエに出会ってきた方もこの海で大きなヒレが見えるとテンションが上がるのではないでしょうか。早速母船からドーニに乗り換えてお目当てのジンベエスイムの始まり! ただしここからがちょっと力技。というのもここのジンベエは泳ぐのが速い!!とっとと去って行くのだ。
「まあ逢えただけでいいしね!」という大人な対応ができればハッピー。
だが、絶対撮ってやるぞ!のアナタはとにかく真っ先にエントリーすること。運良くこちらに向かってきたら進行方向をあけること。そうしないとイヤがってすぐに逃げてしまうのだ。
オスロブとは違って一頭のジンベエに大勢のスノーケラーが群がるため、ベスポジ(最もよいアングルのためのポジション)争奪戦は避けられない。他のスノーケラーを背景と考えてジンベエと一緒に映し込む度量の大きさも大切。置いてかれそうになったら裏技片手クロールで頑張って!
【攻略法:ラパス編】
世界自然遺産の海コルテス海にはアメリカ南西部を流れる全長約2,333 kmのコロラド川の豊富な養分が常に注ぎ込まれている。食物連鎖の最小から最大までの生き物が力強く生命を謳歌しそして去っていく。そんなドラマチックな海なのだ。
映像でもおわかりのように、特に潮流の影響を受けにくい湾内はまるでフィッシュスープの中にいるような養分(不透明感)ゆえに、ジンベエの巨体がさらに強調され、小魚の群れ方は異様に感じられる。他のエリアでは決して見ることのない光景を映像に残すためには接近戦が必須で、もし泳力に自信があれば一気に潜って撮影してはとうだろうか。思いもよらない映像がモノにできるだろう。
『マンタ』!
マンタの撮影フィールドは大きく分けて2タイプに分かれる。
モルディブのハニファルベイやパラオのジャーマンチャネル表層に集まるプランクトンを捕食するために集まってくる水面パターンと、クリーニングステーションと呼ばれる海底の根に来るパターン。いずれも潮の干満に関係するようで、そんなウンチクを地元ガイドからブリーフィングされると毎度感心してしまうのはボクだけでしょうか。
世界中に数多くあるマンタスポットの中でもとりわけモルディブ・パラオ・石垣島・ヤップ・ハワイのナイトマンタ・メキシコのソコロは人気が高く比較的情報も手に入り易い。まずは出現のタイミングを事前に調べてみよう。
例えば、モルディブの水面パターンの出現タイミングは、モルディブバア環礁北東のハニファルベイ(ユネスコの生物圏保護区に指定)で5~11月、南西モンスーンの潮流によってプランクトンやオキアミが深海から上がってくるのを狙って集まる100枚以上のマンタやジンベエたち。直径20㍍ほどのトルネードを作りながら捕食を繰り返す壮絶なシーンを目の当たりにすることができる。
注意点としては、通常スノーケリングのみ観察が許可されているので水面付近から波揺れしないようにカメラを水面下30cmほどにキープしてしっかりホールドすること。オキアミやプランクトン類が皮膚を刺激するのでロングで薄手のウエットスーツにフードベストなどを用意。多数のスノーケラーと混合になる恐れもあるので自分のガイドやボートの位置を常に確認すること。特に天候が急変したら要注意。ガイドの側にいて状況を確認しながら安全に撮影しよう。
さて、マンタを写真一枚で最も魅力的に表現するなどの様な構図を選びますか?
下から太陽を入れ込む?
正面でシャッターを切る?
上から俯瞰してマンタの黒さとカタチにこだわってみる?
かっこよく写真で切り取るセンスとスキルはムービーでも生きてきます。良い写真が撮れるならセンスいいカメラワークをこなすことができるのです。
当分は写真とムービーをパラレルで楽しんでみてはいかがでしょうか!!
次回 第5回 今だから本格的に始めよう!デジタル一眼ムービー
【石川肇プロフィール】
1961年東京生まれ (株)水中造形センターを経て独立。
写真・映像撮影の編集や、3D関連の撮影編集を手掛ける。
「海辺の旅」をテーマに作品を撮り続け、撮影で訪れた国は80カ国以上。
テレビの海洋ドキュメンタリーやCM、ビデオ作品、政府観光局のPVといった映像作品や、雑誌、イベント、ラジオなどの多方面のメディアで活動中。最近は3D映像の作品を多数手がける。
3D番組としては、世界初の試みを中心に企画して番組化。
主な3D 番組「タヒチ:ザトウクジラ」・「モルディブ:ハニファルベイ」・「南インド」・
「ハワイ:ナイトマンタ」・「3Dカリブ海 最速のプレディターセイルフィッシュ」など。
国際3D協会ルミエール・ジャパンアワード2013 にてドキュメンタリー賞を受賞
of 石川肇公式サイト
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