DIVINGスタート&スキルアップBOOK 2015
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第5回 今だから本格的に始めよう!デジタル一眼ムービー
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第5回 今だから本格的に始めよう!デジタル一眼ムービー
ちょいと昔のフィルム時代、今のように気の利いた防水機能を備えたカメラは少なく、旅先などで売られていた「使い捨てレンズ付きフィルム」で水中写真のデビューを飾た方もいるでしょうか。あのカメラで上手く撮るには"コツ"というより"運"が必要でしたね。当時は本格的な防水カメラといえばニコノスだけ。これがまた難攻不落なヤツでした。距離合わせは目視だし近い被写体はパララックス(※1)に手こずったものです。最終版となったニコノスRS(※2)が登場したときには「これでピンボケやら構図のずれた写真からサヨナラできる!」と驚喜した思い出があります。
当時の話はさておき、デジタルに代わり諸々の呪縛から解放されてみると、ここ最近のカメラ市場はとても面白い。高性能コンパクトカメラやフルサイズセンサー搭載のミラーレスカメラが市場を賑わせ、各メーカーで独自の魅力を放っている。それらには当然のように防水機能が備わっていたりする。またウェアラブルカメラ・ビデオカメラ・デジタル一眼レフなども新製品ラッシュで店頭でのデモ映像にワクワクしてしまうのです。何を選んでいいのやら悩ましい。カメラ雑誌も話題に事欠かないだろうな(^^)。
さて、今回のお題目に掲げたのは"デジタル一眼ムービー" です。 何故、今、これ?の疑問に答えるべくパプアニューギニア(PNG)で作例ムービーを撮りおろしてきましたのでご覧下さい。
※1 パララックス:実際にフィルムに写るものと外付けのファインダーから見えるもののズレ
※2 世界初の一眼レフオートフォーカス水中カメラ 当時、この性能が武器に転用できるとのことで海外ロケ時の持ち出しに許可が必要でした
デジタル一眼ムービーを始める理由その1
画がキレイである!「フワフワマクロムービー編」
カメラ:ニコンD800
レンズ:AF105mmマクロ
ハウジング:SEA&SEA MDX800
ライト:RG BLUE 2×2
水中ライトのシーンが印象に残ったかと思います。実はこれ陰の主役で必須です。価格はカメラ本体ほどしますが、映像の要となるので機種選びはこだわってください。
通称"デジイチムービー"の時代を創ったCanon5D MarkⅡ。その登場から早6年。世界初の革新的なムービー機能は発売当時(2008年)、You Tubeフリークや高感度なクリエーター達の間でもてはやされ、瞬く間に映像業界に飛び火。オシャレなミュージッククリップやウェディング映像はこれなしでは始まらないまでに確固たる地位を築いてきた。 「ふわっ」とした淡いテイストでいかにも女子ウケしそうな映像も撮れ、その後、写真にも影響を与えることになる。
デジタル一眼ムービーを始める理由その2
映像のリアリティが絶大! Canon5DMarkⅡで撮影のワイドムービー
「迫力のドキュメンタリータッチ編」
3つのコツを覚えてストレスフリーな一眼ムービーを楽しむ
ピントはセミオートで克服すべし!
カメラの機種によっても異なるが一眼レフカメラにおけるムービー撮影時のオートフォーカスは今一つ頼りない。ワイド撮影なら光学上の理論で概ね全部にピント(専門用語でパンフォーカス)がくるだろうが、マクロレンズやズームのテレ側(望遠側)となるとコツが必要だ。
元よりピントの浅さに興じることが一眼流。"フワッ"とした雰囲気こそが作品の魅力となりえるのだからコツをものにしたい。
この作例に登場する被写体の中で唯一ウミウシだけは最初から最短距離で撮影できた。それ以外は遠めからライトを点灯した状態で徐々に近づきフォーカスを探りながら録画開始した。
生物撮影は、"眼"にピントを合わせられるかが勝負どころ。
周囲の明るさや背景とのコントラストなど様々な要因で最初からドンピシャに合わないかもしれない。その際は少し近づいてみる。
最新のカメラとレンズの組み合わせをもってしても中空に浮いている被写体をスムーズに追い続けることは難しい。そんな時はマニュアルフォーカス撮影に切り替える。ピントを固定して被写体の動きに合わせてハウジングごと前後させる。フォーカスギアが付いていれば併用してもよいだろう。
カメラには様々なフォーカス機能が備わっている。例えば"顔認証"やファインダー内の"手前にピントを合わせる"など。どのモードが水中のマクロ撮影に適しているかはトライ&エラーで経験を積むのが近道だろう。
ワイド撮影の場合はちょいと作法が異なる。
例えば群れを撮る場合。
まずファインダーを覗きながら2〜3メートルのピント位置を確認しておく。ムービーモードに切り替えるとモニターから同じ風景が映し出される。そこからレックボタンを押す。つまり日中の明るい海中でではモニターでのピント確認は不可能に近い。遮光性があって普段から慣れているファインダーでしっかりフォーカスを合わせておけば後は多少距離が変わろうと許容範囲内で収まる。
このプロセスを省くととんでもないピンボケ映像を量産することになる。
カメラワークはゆったりと!
デジタル一眼ムービーは収録形式の特性で横の動きに弱い。カメラをパーン(横に振ること)したり魚群が猛スピードで通過するシーンでは映像がガタついたり「ローリングシャッター」といわれる歪みが生じることがある。対処法としてはできるだけカメラを固定位置で撮る。振り回さず被写体に動いてもらうことで動感を演出するのが一般的な撮影方法(専門用語で「フレームイン」)。極端な話、定点撮影でも海中では被写体が面白いことをやってくれるのでOKなのだ。太陽の輝きだけでもダイバーの泡だけでも、一般の人に映像を見せたら感動するのではないでしょうか。
手ブレしない撮影テクニック
作例映像でわかるように撮影中のフィンワークはゆったりと、左右を少し開き気味にすると安定感が増す。海底に着底しての撮影ではBCから空気をしっかり抜く。
生物にダメージを与えないように十分配慮して、岩などにヒザやヒジを固定する。レコーディングが始まったら呼吸を止めるかゆっくり吐く。マクロ撮影では自分の心臓の鼓動ですら伝わってしまうので全神経を集中すること。そんな時には水中専用の三脚が出番となる。海中では使える場所を選ぶが、被写体がハマれば思った以上の成果がもたらされる。まるで自分の腕が上がった気分になるのだ。ワンランク上のクォーリティを求めるなら考えても良いんじゃないですか? なにも高価な専用三脚でなくとも小型で太めの脚を持つ三脚なら代用可能です。
このページの読者の方はダイバーがメイン。一般の人では見ることのできない海中の絶景に出会えるのだからカメラも"安いから"だけの理由で選ぶのではなく撮りやすさやキレイに撮れる機種を選んでほしい。
次回は 第6回 ロードムービーを撮ってみよう!
【石川肇プロフィール】
1961年東京生まれ (株)水中造形センターを経て独立。
写真・映像撮影の編集や、3D関連の撮影編集を手掛ける。
「海辺の旅」をテーマに作品を撮り続け、撮影で訪れた国は80カ国以上。
テレビの海洋ドキュメンタリーやCM、ビデオ作品、政府観光局のPVといった映像作品や、雑誌、イベント、ラジオなどの多方面のメディアで活動中。最近は3D映像の作品を多数手がける。
3D番組としては、世界初の試みを中心に企画して番組化。
主な3D 番組「タヒチ:ザトウクジラ」・「モルディブ:ハニファルベイ」・「南インド」・
「ハワイ:ナイトマンタ」・「3Dカリブ海 最速のプレディターセイルフィッシュ」など。
国際3D協会ルミエール・ジャパンアワード2013 にてドキュメンタリー賞を受賞
of 石川肇公式サイト
URL:http://www.horizon-uw.com/