テツ先生の新・海のいきもの
連載第13回 色々変わるカエルアンコウ

生物の知識を身につければ、ダイビングはもっと充実し、海に通うのがさらに楽しくなりますよね! 東海大学海洋生物学科准教授でインストラクターの鉄先生のいきもの連載がついに2年目に突入しました。初心にカエル思いから、第13回目はカエルアンコウです。
※2026年9月の情報です
英語圏では別名Anglerfish=漁(いさ)りウオ

ベニカエルアンコウ 英名:Frogfish 撮影地:三保真崎 水深:18m 体長:3cm
今回ご登場いただく魚は、カエルアンコウです。早いもので、この連載のお話をいただいてから1年が経過しようとしています。これまでも、海の生き物関連の執筆やシリーズもの、インタビュー、コメントなどを求められる機会は数多くありましたが、当時は専門家としての記載やコメントをする専門家としての立場でなかったため、ご希望に応じることができませんでした。数年前に海洋学部の海洋生物学科所属となり、やっと学術的な話を踏まえて執筆やコメントができるようになりました。
これからもフレッシュなコメントができるように初心にカエルという意味で選んだ魚でもあります。それでは、エピソードトークを交えて、カエルアンコウについての生息環境や生態に加えて擬態についても解説してゆきたいと思います。

カエルアンコウの幼魚 撮影地:三保真崎 水深:12m 体長1cm
ご存知の方も多いかと思いますが、改めてカエルアンコウの改名についてお話ししたいと思います。もともとカエルアンコウはイザリウオという和名でした。Anglerfishという別の英名が示すようにカエルアンコウにはエスカと呼ばれる誘引突起があり、その先端を巧みに動かすことで魚や海老に見せて、興味を持って近づいてきた魚を捕食します。その釣りをする姿から漁をする魚、つまり「漁(いさ)りウオ」と言われていました。しかしながら、名前が変更になった理由は、この魚の別の特徴によるものでした。カエルアンコウは、前回紹介したマツカサウオ並みに泳ぎが下手な魚で、短い距離の移動では左右の胸ビレと腹ビレを使ってヨチヨチと海底を歩きます。

エスカ(疑似餌)を振り上げている状態 撮影地:三保真崎 水深:18m 体長:6cm
ここでは伏せ字にはしませんが、この歩き方が躄(いざり)に見えることから、あるいは混同されることから、放送禁止用語の入っている和名は相応しくないとなり、2007年に改名になりました。つたない記憶ではありますが、同じように放送禁止用語や地方名の入っている名称も改名の対象となり、少なからず和名が変更になった海洋生物が他にもいたはずです。確かに、生物の名前を放送する際に、いちいちピーやバキュン音を入れていたのでは、生物の紹介になりませんね(笑)
環境に合わせて色と模様が変化

オーソドックスな縞と点の個体 撮影地:三保真崎 水深:23m 体長:12cm
他にもこの魚の特徴で言及しておかなければならないのが、体色の変化についてです。カエルアンコウは体色や模様のバリエーションが多いと言われております。もちろん種によって、若干ではありますが、得意や不得意があると思いますが、こやつらは色も模様もある程度の色彩・形状領域において変更が可能なので、同じ個体でも環境が変われば昨日と同じ、色や模様でいるわけではないのです。

故・草間彌生さんを彷彿とさせる個体 撮影地:三保真崎 水深:20m 体長:14cm
過去に、今年はカエルアンコウがやたらと多いなぁ〜と思って観察を続けていたある日のことです。エントリーして直ぐの玉石が密集するエリアにオレンジ色のカエルアンコウがいました。ここで観察をする個体は、ほとんどが黒か灰色か紫です。珍しいこともあるものだと、周囲を見回すと錆びた金属片があり、多分そこに寄り添っていた個体だったのではないかと思い通り過ぎました。同じ経路で戻ってくると、先ほど見たオレンジ色のカエルアンコウの姿はなく、灰色のカエルアンコウが似たような場所(錆びた金属片の近く)にいました。ここで雷に打たれた衝撃のようなものが体を駆け巡ったことを今でも覚えています。そうです!私が多いとカウントしていたカエルアンコウ数は、実は重複個体であったことが、これによって判明したのです。これをセブで水中写真家として活躍されている当時のYoshi平田さんに話すと「おぉ、あいつらさぁ早いやつは5分くらいで色変えるもんなぁ」とあっさりと返されて、ですよねぇ〜と相槌を打って、おぃおぃこれって業界のハイレベルの人たちの間では普通のことなんかぃ!とビビったことがありました。
日本で見られるカエルアンコウは16種

オオモンカエルアンコウ 撮影地:三保真崎 水深:15m 体長:12cm
ここで国内のカエルアンコウの種を紹介しておきます。私が主なフィールドとする三保真崎は、それほど種数は多くなく、カエルアンコウ、ベニカエルアンコウ、オオモンカエルアンコウくらいで、2度ほどクマドリカエルアンコウが出たとの情報がありましたが、私は確認できませんでした。上記に加えて、イロ、ボンボリ、ヒメヒラタ、ソウシ、カスリ、エナガ、ロケット、ウルマ、ムチ、最近の記録では2022年にピエロカエルアンコウが新種として記載されたそうです。これに、カエルアンコウモドキとハナオコゼも加えて16種のカエルアンコウが日本国内にいるようです。

皮弁が発達したカエルアンコウ 撮影地:三保真崎 体長8㎝ 水深18m
獲物を狙うペッカム型擬態
最後に擬態のお話で締めくくりたいと思います。色や模様、なんなら皮弁まで伸ばして、ついでに擬似餌まで使って擬態する理由は食料供給、つまり捕食のためです。これを攻撃的擬態Aggressive mimicryといいます。アメリカの研究者であるペッカム夫妻(George and Elizabeth)の研究によって提唱されたため、ペッカム型擬態とも言われています(奥さんが元スパイス・ガールズのメンバーのサッカー選手ではありません)。これに対して、自分が捕食されないように姿形を変化させることを防御的擬態Defensive mimicryといい、これはイギリスの研究者であるベイツ博士(Henry Walter Bates)が提唱したことで、ベイツ型擬態と呼ばれています。ついでにもう一つ協力的な擬態が存在していて、この研究はドイツの動物学者であるミューラー博士(Fritz Muller)によって提唱されたことでミューラー型擬態と言われております。実は、私も記事を書くにあたってカエルアンコウについて改めて調べて、まさか16種まで増えている(13種くらいまでは把握していましたが)とは思っていませんでした。ロケットやピエロなどの希少種は難易度が高そうですが、昆虫採集の気分で、ぜひカエルアンコウのコンプリートを目指して、日本の各地に足を運んでみてください。
Profile
鉄 多加志
Tetsu Takashi
1965年(昭和40年)生まれ 静岡市出身
東海大学海洋学部 海洋生物学科准教授
ダイビング歴41年、潜水時間約1万3800時間。
国内70数カ所、海外20数カ所を含む約100カ所で潜っている。「ひとつの知識と経験が、同じ場所の同じ風景、生物をもっと魅力的にする」というモットーの下、同じ場所に潜って観察を続けるダイバーで、潜水歴の約8割は三保真崎。大学でも、「好奇心を持ち続けることで、同じ風景や生きものが同じように見えることはない」という観点で履修学生を指導している。
専門は潜水法で「浅海域での長時間潜水時におけるEANガス使用の研究」、「水中遺跡(沈船)潜水調査における安全対策の検討」「水中遺跡(沈没船)調査における安全な潜水方法の研究」(いずれも東海大学海洋研究所研究報告)をはじめ研究論文は多数。
主な著書(共著)に、オーシャンエクササイズ、駿河湾学、海洋考古学入門(いずれも東海大学出版)、THE DEEP SEA(静岡新聞社)、図版 世界の水中遺跡(グラフィック社)などがある。











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