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第25回 オクトパスブリージング
気づいたらエアがない!
あってはならないことだが、ダイビング中に起こるかもしれない出来事の一つだ。
エアがなくてパニックに陥り、水を飲んでしまって溺水に至るケースもあるけれど、ダイビングで死なないためにも、しっかりと基本を覚えて実行できれば危険からは脱出ができる。
その緊急対処法の一つ、オクトパスブリージング。あなたはちゃんとできるかな?
オクトパスはバックアップ空気源
レギュと同様、右出しが一般的
オクトパスが誕生した1970年代は確かにその目的は、「バディブリージング」=エア切れを起こしたバディに空気を与えるためのものだった(「オクトパスブリージング」とは呼ばれておらず、「バディブリージング」と呼ばれていた)。
だから、万が一の際、相手に渡しやすいようにファーストステージに設置する際は、ダイバーの左側に来るように取り付けられていた。
が、安全潜水を追求していくにつれ、オクトパスは他人ではなく自分のレギュレーターに問題があった場合の「バックアップ呼吸源」として使うほうが優先されていく。ゆえに取り付け位置もレギュのセカンドステージと同様、右出しにすることが一般的(ダイビング指導団体のマニュアルで、という意味)になってきている。
右出しにした場合、万が一バディにオクトパスを渡すとなるとマウスピースの位置が逆になり、呼吸しにくくなったり、ホースがねじれたり……。そうならないようにホースを長めにしたり、ヘッドの部分が回転するタイプになっていたりといった商品も出ているのでチェックしたい。
主要指導団体の呼称は
「バックアップ空気源の使用」
オープンウォータークラスの講習の際、万が一のトラブルに備えてバディブリージングを教わる。既に皆さんも教わっただろうが、近年、ダイビング指導団体でもPADIやSNSIなどがバディブリージングのことを「バックアップ空気源の使用」という呼称で講習を行なっているようだ。バディブリージングと言うと、オッサン、オバサンと思われるかも!?(笑)
バックアップ空気源というのはつまりオクトパス。なので、指導団体でも「オクトパスブリージング」と呼ぶ場合もある。
エア切れになったら即、すべきこと
1 バディにサインを送る!
エアがなくなったら、まずはバディに「エア切れ」のハンドシグナルを送り、エア切れになったことを理解してもらうことが大切。
バディが万が一そばにいなかったら、すぐにガイドやインストラクターに知らせよう。
ハンドシグナルは、そう。
志村けんさんの“アイーン”に似た、ノドを刀手で切るようなサイン。
2 バディからオクトパスをもらう
(またはバディにオクトパスを渡す)
無事、バディがエア切れの意味を理解し、オクトパスを差し出してくれたら、もう大丈夫。
できるだけオクトパスをくわえやすい場所に近づいて、オクトパスを口にくわえ、パージボタンを押して中に入っている水をクリア(レギュレータークリアと同じことをするだけ)。
自分も、エアをくれたダイバーも落ち着いて2呼吸してみよう。
このとき、二人が離れてしまうとオクトパスが外れかねないので、必ずお互いに片手(後でインフレーターの排気をしたりするので、右手がベター)で相手の上腕部やひじ辺りをつかんで、離れないようにすること。
3 BCを排気しバディの腕をとって
浮上準備
二人が落ち着いたことがわかったら、浮上の準備を。
BCのインフレーターの排気ボタンを左手に持って、まずはBCの排気。
そして、浮上スタートだ。
時々「エアはまだある」と勘違いをして、ダイビングを続行しようとする方々がいるが、一人のエアがなくなっている事態で「緊急事態」に陥っているわけだから、ダイビングは諦めて、ガイドやインストラクターにわかるように合図して(浮上するのハンドシグナルを送って、理解してもらう)、浮上態勢に入ることがポイント。
4 ゆっくり浮上
オクトパスブリージングをしていても、浮上中、水深3~5m台での安全停止をしたほうがベターだが、相手の残圧も少ない場合は二人がエア切れで緊急浮上となっても困るので、その限りではない。
気をつけたいのは浮上速度。毎分9m、速くても毎分18m以下のスピードを維持して、急浮上しないように注意しよう。
ああ、勘違い!
オクトパスブリージング
いきなりオクトパスを奪う
バディがいきなりオクトパスを奪ったために、奪われたダイバーがびっくりしてパニックになり、事故に至ったというケースもある。エア切れになった人は、傍若無人にエアを奪っていいはずがない。
ちゃんとハンドシグナルを送り、相手に納得してもらってからオクトパスをもらわないと、二次的なトラブルも起こりかねない。
でも、世の中にはそういう傍若無人なダイバーもたま~にいることも知っておくと、びっくりしたとしても、パニクらずにすむはず。
たまにバディじゃないのに、前後不覚になっていきなりオクトパスを奪う人もいるので、ホント、気をつけて。
エアはまだあるから潜れる!は大間違い
前述したように、エア切れになった人がバディのオクトパスを吸いながら 粘って撮影をしていることがある。 いやいや、もうオクトパスブリージングをしていること自体が、通常のダイビングから離れた 危険な状態ですから!
バディのエアがあるから大丈夫、ではない。
プールで潜っているならまだしも、海ではいつ何時、何が起こるかわからない。
浮上中にものすごい流れに遭うことだってあるかもしれないし、浮上してから違う地点まで、波がある海面をひたすら泳がなくてはならなくなることもあるかもしれない。
そんなときのために、50bar(または700psi)を残して浮上することが望ましいとされているのだ。
くれぐれも、オクトパスブリージングをするハメになったら、バディ同士で浮上することが基本だと心得てください。
なお、ガイドやインストラクターと一緒に潜っている場合は、浮上する理由と浮上することをガイドにハンドシグナルで送ってから浮上すること。
エアが切れるってどういう状態?
残圧がなくなるってことは
どういうことなんだろう?
たぶん、皆さんはエア切れを体験したことがない人が圧倒的に多いはずだ。エアがゼロになると陰圧でタンクに水が入ってしまう(サビの原因になる)といって、業者もとても嫌う現象なのだが、何よりもエアがゼロになると、ダイバーはどうなるのだろう?
当然のことながら、レギュレーターでエアを吸おうとすると、エアは来ない。残圧計を見ると、針はゼロを指したままだろう。
ただたいていのレギュレーターは、残圧が少なくなってくると、エアが吸いにくくなるという構造になっている。普通に吸っていたエアが突然来なくなるということはまずないはずなのだ。
吸いにくいと感じたらまずは残圧計を確認して、エアの残量を確かめよう。この時点でエアは20を切っていると思われる。やはりバディやガイドに、残圧計を見せ、残圧の数値をハンドシグナルで知らせて、バディやガイドからオクトパスを渡してもらって、オクトパスブリージングをしながら浮上段階に入ること。
残圧が50を切ると不安……はまだ早い
「50barを残してダイビングを終わらせること」と教わっているダイバーが50を切ったときの不安感といったらないだろう。
教え方、考え方の違いでしかないのだが、確かに50を残して浮上したほうが、浮上後万が一何かが起こったときでも安心だ。
でも、50を切ったからといって、即、危険というわけではない。
水深20mで残圧が50を切った場合、毎分9mの浮上速度で浮上すると、2分ほどかかることになる。
平均空気消費量が毎分12ℓの人は、10ℓのタンクを使っていたとすると計算上では約5barがあれば浮上できることになる。
全然余裕だ。計算上は。
水中で冷静に計算するのは難しいけれど、残圧が50を切ったからといってむやみに焦るのは禁物なのだ。
だからといって(浅瀬ならエアは長く続くからといって)残圧ゼロギリギリになるまで潜るのだけはやめましょうね!
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