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STOP! 潜水事故
CASE121 ウエイト調整ができずに急浮上
ダイビングに限らず事故はつきものではあるが、最初から最後まで何事もなく安全に楽しめてこそ、本当のレジャー。 ダイビングの場合、潜水事故というと死に至るケースも少なくない。 そして多くの人が「他人事」と思っているフシもあるけれど、ふとした気の緩みやちょっとしたケアレスミスで潜水事故が起こることも。 明日はわが身。 もう一度基本を振り返る意味でも、ぜひこの連載を参考にしていただきたい。
CASE121 ウエイト調整ができずに急浮上
今回の潜水事故の原因
- バディ不遵守
- 身体拘束
- 監視不十分
- 器具の不備・取り扱い不注意
- 体調の不注意
- 技量の未熟
- 気象・海象の不注意
- エア確認不注意
- その他
【事例】
事故者は3ダイブの予定でボートダイビングに出かけた。インストラクターを含む数名でダイビング。1本目を潜った時に、事故者はウエイトが軽いと感じ、2本目は2kg足して潜ったところ中性浮力がとれず、水深37mぐらいまで落ちてしまいパニックに。BCに空気を入れて少し浮上しようと思ったところ、事故者の意思に反して急浮上。これに気づいたインストラクターが浮上中の事故者を捕まえたが、パニックに陥っていて自分からレギュレーターを外してしまったため、事故者を上向きにさせたまま水面までなるべくスピードを落として浮上した。水面で事故者は意識を失っていて呼吸をしていなかったため、船上でCPRを実施し、港に直行。救急車とドクターヘリにより病院に搬送された。
医師による診断の結果、外傷はなく潜水病もないが、肺に水が入ったことから2~3日の経過入院と診断された。事故者は生存。
直接の原因パニック
対処法
中性浮力をとるためには「適正ウエイト」といって、自分に合った“適正な”ウエイト量を付けて潜ることが重要といわれている。たいていは一度決まれば大丈夫なのだが、タンクがアルミかスチールかによって大きく変わるし、当日着るスーツがウエットかドライか、はたまたインナーの量やフードベスト着用などでも変わってくる。稀ではあるが海によっても塩分が濃いところはウエイトを多めにするなどの必要がある。
事故者は1本目で軽いと感じて2本目に増やしたのは正解だが、正直2kgは多すぎたのではないだろうか。まして深場に行く予定だったのだろうが、深く潜ると浅場よりもずっとウエイトの重みが増すもの。思ったよりも沈んでしまいかねない。
2本目を潜る時点でインストラクターに「2kg増やしたい気分だけど1kgだけにするから、途中で足りないと思ったらウエイトをください」といった相談をしてもよかったのではないだろうか。2kg増やすのはかなりのウエイト調整だと思ってよい。ダイビングショップによっては0.5kg玉を用意していることもあるし、そもそもインストラクターは少し重めにウエイトを携帯しているから、そういう相談はウエルカムなはずだ。
ということは、そもそも1本目で軽いと感じた時点で、水中でインストラクターに1kg、まずはウエイトをもらっておけば、2本目の事故につながらなかったのではないだろうか。
あとパニックを起こした事故者のもうひとつの原因がBCの空気の入れ方。抜き方。
1点目はインフレーターを給気ボタンを押して空気を入れてもすぐには浮き始めないもの。タイムラグがあるということを知っていたか?
2点目は深場では空気をたくさん入れてようやく浮上するが、浅くなるにつれてたくさん入れた空気が膨張してしまうので、途中途中で抜いていく必要がある。このことができていなかったのではないか?
もうひとつ言えば、BCに空気を入れるとともに、肺という浮袋を利用する方法ができていたか?
1点目のBCの給気&排気のタイムラグはほんの2~3秒のことなので、落ち着いて待てばいい。深いところにいてもそれぐらいは待てるはずだ。
事故者は待てずにガンガン給気して浮いてきたところ……ひとたびBCに給気した空気は水深が浅くなるにつれ膨張するので、たくさん入れていたら水深20mぐらいまで上がってくると水圧は4.7気圧から3気圧に減って(1.7気圧差)、約2倍も空気は膨らむ計算になる。急浮上しないはずがない。
浮上するにつれて空気は膨らむので、こまめに抜いていくことが大事だった。これができなかったから急浮上に至ってしまったと考えられる。
さらに、事故者は水深37mまで落ちてしまったことで冷静さを欠いてしまい、急浮上でパニックに至ったのではないか。思いも寄らない深いところに落ちてしまった時の次の行動は、浮上することだが、思いがけず急浮上していることに気づいたら、①BCの空気を抜く ②肺から空気を絞り出すように息を吐く の2点を急いで行えばいいだけ。BCの空気を抜くのは、BCにもよるが背中や腰に排気バルブが付いているタイプならそれを引っ張って抜くこと。インフレーターホースを上げて操作するよりもずっと早く排気ができる。
ちなみにパニックに陥りそうになった時の3つの行動をおさらいしておくと。
① 止まる(STOP)
② 呼吸をする(BREATH)
③ 考えて行動する(THINK&ACT)
という順序。急浮上の時は止まれないだろうけれど、何かを見つけて捕まるのが一番。それがインストラクターだったら安心だ。
それでも止まれない場合は、講習で習った緊急スイミングアセントの方法を思い出して、息を吐きながら、なんなら「あー」と声を出しながら水面まで浮上する。こうすれば水面で意識を失ったり、水を飲んでしまったりする危険は回避できる。
とにかく事故者が生存していて少しは安心した。下手をすると死に至る例でもあるからだ。
ダイビングをする前には、基本に立ち返ったり、万が一パニックに陥りそうになった時にすべき行動を思い起こしたりして、常に安全を心がけてほしい。
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