
DIVING スタート&スキルアップ 2021
ダイビングに限らず事故はつきものではあるが、最初から最後まで何事もなく安全に楽しめてこそ、本当のレジャー。 ダイビングの場合、潜水事故というと死に至るケースも少なくない。 そして多くの人が「他人事」と思っているフシもあるけれど、ふとした気の緩みやちょっとしたケアレスミスで潜水事故が起こることも。 明日はわが身。 もう一度基本を振り返る意味でも、ぜひこの連載を参考にしていただきたい。
ボートダイビングを開始後約20分、
事故者が息苦しいと胸を叩く合図をインストラクターに送ったため、
インストラクターはただちに同人を浮上させた。
船上では苦しい表情で唸るだけで、意識も朦朧としていたことから病院に搬送することに。
病院到着後、事故者の容体が回復したが、念のため、ドクターヘリにて総合病院へ搬送したところ、
再び容体が悪化。
治療するも植物状態が続いてしまうハメに陥った。
実は事故者はその9カ月前に左肺を手術しており、
施術痕から呼吸による空気が体内に漏洩(ろうえい)したことが原因で
「動脈ガス塞栓症」と診断された。
直接の原因動脈ガス塞栓症
肺の病気をした後のダイビングは、かなりセンシティブ。
医師の判断を仰ぐ必要はもちろんあるが、医師としても前例などを見ながら判断するのだろうが、
そもそもそうした症例がなかなかないため、判断しにくいだろうと予想される。
(肺の手術をした人がダイビングをしたときに、何事もなく無事にすんでいたとしても医師にフィードバックされる確率は低い。
逆にこうした事故が起こって初めて報告されるケースが多いわけだが、それとて事例は少ない)。
事故者が事前にダイビングのことがわかる医師に相談していたかどうかは不明だが、
ダイビングのことはわからない担当医が術後、半年以上経ったことだし、傷口は問題ないという程度でOKを出した可能性もある。
でも、そこは個人差もあるわけで、特に肺に関しては目に見えないわけだから、
今回のようにちょっとした手術痕から動脈ガス塞栓症を引き起こしてしまう可能性もあるということだ。
レントゲンを撮って精査すれば、防げたのかもしれない。
ちなみに、「動脈ガス塞栓症」というのは、
ダイビングでよくあるのは急浮上をしたことにより浮上中に肺が破けて、肺の空気が動脈に入り、その空気が脳まで運ばれ詰まってしまい、中枢神経を圧迫。意識障害、運動神経障害、視力障害、言語障害などなどが現れる病気。
事故者もそのために残念ながら植物状態に陥ってしまったのだろう。
肺の術後9カ月はまだ早かったのかもしれないし、
最初のダイビングは事情を言って、とにかく水深の浅いところ……絶対圧の差があまりないところから始めていくべきだったともいえる。
酷な話ではあるが、ダイビングを諦めることも肺の病気をした方は考えたほうがいいかもしれない。
ダイビングは手足が動かない方、目の悪い方、耳が聞こえない方などなど障害のある方でも楽しめるダイビングではあるが、
肺や心臓の病気については、完治したとしてもこうした危険が伴うので、
くれぐれも慎重にダイビングを再開していただきたいと思う。